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第5回■祭りの夜 1/7
◇境内(一) ここは薄暗い神社の境内。 浴衣姿の少女は、狛犬に寄りかかりながら、ぼんやりと社の後ろにある塀の向こうをながめていた。 塀の向こう側は大きな団地になっていて、今夜は広場で盆踊りが行われている。 少女がいる境内からも、やぐらを中心にのびる提灯の明かりが見えた。 割れたスピーカーから流れる盆踊りのメロディと、ちょっと調子のずれた太鼓の響きを聞きながら、少女はボーイフレンドを待っていた。 はき慣れないゲタの鼻緒を見つめていると、ジャリッ、ジャリッと小石を踏む足音が近づいてくる。 期待して顔を上げると、そこには懐中電灯を片手に持った白い髭をたくわえた老人が立っていた。 「どうしたの? こんな薄暗いところにひとりで」 丸顔の老人は、腰をのばながら優しそうな表情で言った。 「友達と待ち合わせしているもので・・・」 少女は、やや身を固くして答えた。 「こんなことにいたらあぶねぇから、早く明るいところへお行きよぉ」 何となく子供扱いされたように感じた少女は、家の出がけに母親に対して言ったのと同じ口調で、老人に向かって言った。 「でも、塀の向こうには人が大勢いるし、反対側だって階段を下りれば、すぐ商店街でしょ。大丈夫です」 その言葉を聞いた髭の老人は、ちょっと目を丸くした。 そして、境内のまわりを懐中電灯で照らしながら、ゆっくりと話しはじめた。 「お嬢ちゃん。この季節、暗くなるとこの境内に誰も近づかなくなるの・・・何故だか知んねぇようだの」 老人の照らす懐中電灯の先には、猫の子一匹いない。 少女は、息をのんだ。でも、あいわらず鳴り響いている盆踊りのメロディを確かめて、やや安心した表情を取り戻すと、 「脅かさないでよね。団地の方で盆踊りやってるから誰も来ない・・・だけでしょ」 「ウム・・・昔はな、この神社の境内で盆踊りやっとったんじゃ」 「そんなこと、初めて聞いたわ」 「そうじゃろうのぅ」 老人の持つ懐中電灯の明かりが、社のわきにある空き地を指した。 「ちょうどあの当たりじゃな・・・毎年、盆踊りの季節になるとヘビ女の見せ物小屋が建ったのは」 |