第4回■ボクの引っ越し 5/6
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男は、ついにあっしの頭の方までやって来た。
しっかりと足場を確保すると、腰につけていたノコギリをはずして、テッペンの方から両脇に広がったばかりの枝にそいつを当てた。

「これからあっしは、まる坊主にされて、しまいに幹もバラバラにされるんだろうなぁ」とジッと目を閉じやしたよ。
どこが目かって? そんなこたぁ、どうでもいい。

ところが男はなかなかノコギリを引こうとしない。
それどころか、あっしの頭の方をなでてるんで・・・。

男がなでてたのは、あっしの古傷。そう、あの悪ガキどもにつけられたキズでさぁ。


男が何もしないで、あっしから降りていくと、2〜3日工事は止まったままだった。

どんな事情が変わったのかは知らねぇが、次にあっしのところへ来たのはショベルカーだった。
足下の土がどんどん削り取られ、とうとうあっしは横倒しになった。
こんなに視点が下がったのは何十年ぶりかねぇ。

で、そのまま大きなトラックに運ばれて、着いたところが、そん時には作りかけだったこの公園。
昔は田んぼがだったあたりかな、ここは。

あっしが以前いた場所は、すっかり変わっちまって、今では高層マンションが建ってまさぁ。
さすがに、あの建物の高さは抜けねぇなぁ・・・。

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