第4回■ボクの引っ越し 4/6
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考えてみれば、あっしが「何か様子がおかしいな」と思ったのは、あっしによじ登ろうっていう悪ガキどもが、だんだん少なくなって、そのうち誰も幹の記録を更新しなくなったのが最初でさぁ。

幹の生傷が増えねぇのにゃあホッとしたモンだけど、妙な寂しさも感じやしたね。正直なところ。

悪ガキどもだけじゃねぇ、夜泣きする赤ん坊の声や、いつも夫婦ゲンカしてるあの家からもピタッと声がやんじまった。
「ははぁ、とうとう別れやがったな」と思ったがそうじゃあねぇ、辺りの家からもすっかり人の姿がなくなっちまった。

静まり返った住宅街にけたたましい音が鳴り響いたのは、それからしばらくしてのことでさぁ。
音の主はブルドーザー。辺りの家を次々となぎ倒していくのが見えやした。

あっしは、その辺りじゃあ一番に大きな木でやしたが、三番目、二番目に大きかった向こう木が悲鳴を上げながら切り倒されていくところを見た時にゃあ「これで、あっしも一巻の終わりかな」と思ったね。

ついに、その時が来やした。

あっしが、あまりにも大きかったモンで向こうにあった木ほど簡単にゃあ倒れねぇ。
工事の連中は、まずあっしの枝を切り落とす作戦に出た。

高所作業車ってやつかね? あの人間を乗せる箱がググーッと伸びるやつ。
まずあれでもってノコギリ持った人間が下から上がってきやしたよ。

だけど胸のあたりまでしか届かない。
「へへっ、ざまぁみやがれ! 機械ばっかりにたよりやがって、もう少し頭使ったらどうだい?!」って笑ってやりたかったね。

ところが今度は、ひとりの男が自力でよじ登ってきやがった。

工事の連中の中でも比較的エラそうなヤツだったなぁ・・・。
まわりの連中と違って、一人だけ背広着てたモンなあ・・・。

その男が、工事の連中と何だかんだ話し合った後、怒った様子でいきなり上着を脱ぎ捨てると、幹に手をかけた。
腰にでっかいノコギリぶらさげてるってのに、器用に登ってきやがるんだな、これが。

幹の下の方から、少しずつ上の方へ人間の手や足が触れてくる感触は、何だか懐かしいモンだった。
「こいつになら、切られてやろうじゃないか」って・・・あっしも覚悟を決めやした。

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