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夕べのドシャ降りが嘘のように、翌日は雲一つない晴天だった。 ノラ犬は母犬のもとへ向かっていた。 高鳴る心臓をおさえるのは精一杯で、いったい何て話しかけたらいいのか、まったく思いつかなかった。 塀のそばまで来て身をかがめる。 以前、ここを通った時には「クーン、クーン」と鳴く子犬の声が聞こえて、思わず中をのぞき込んで、母犬に声をかけたのだが、今はそんな声は聞こえない。 おそらく、もうどこかへもらわれて行ってしまったのだろう。 考えてみれば、あの子犬たちは自分の弟や妹たちだった。 そう思うと、もっとシッカリ彼らの顔を見ておくんだったとノラ犬は後悔した。 とりあえず、伸び上がって中をのぞきこもうとした時、庭の方から人間たちの声が聞こえてきて、ノラ犬はもう一度深く身をかがめた。 人間たちにとっては、ちょうど日曜日。 庭でバーベキューでもやろうという話になっているらしく、その準備が行われていた。 人間たちがいなくなるのをノラ犬はジッと待っていたが、庭からはいい臭いがしてきて、人間たちも一向にいなくなる気配はない。 仕方なくノラ犬は、そーっと伸び上がって、中の様子をうかがうことにした。 食べ物がたくさんのっかった白いテーブルを囲んで、人間たちがさわいでいる。 わきにあるコンロではジュージューと音を立てて肉や野菜が焼かれている。 そのまわりをシッポをふりながら走り回っている母犬の姿があった。 人間の子供が「お手!」と声を上げると母犬は片方の前足を差し出しながら、舌をブラブラさせた。 そして、地面にほおり出された肉片に飛びつくのであった。 ノラ犬は塀にかけていた前足を静かに地面におろすと、クルッと後を向いてつぶやいた。 「ああ・・・腹へった」 おしまい |