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2匹目の子供の行方がつかめたのは、それから1ヶ月ほどたってからのことだった。 しかし、2匹目はもともと体が弱く、もらわれていって間もなく病死していた。 残る3匹目の行方が、まったくつかめなかったノラ犬は、その日もさんざん探し回ったあげく、ドシャ降りにみまわれ、ズブ塗れになって橋の下で休んでいた。 橋の下には先客がいた。 この界隈では古株の老犬だった。 「ジイさん、あんたも雨に降られてここへ?」 「いんやぁ、ワシはもう歩きまわるのには疲れてな。雨が降る前から、ずっとここにおるよ」 老犬のまわりに風よけのために立てられたダンボールの板が倒れかかっているのを見たノラ犬は、それをくわえて立て直した。 「おめぇさんは優しいヤツだな。今は何でも飼い犬のために毎日かけずりまわっとるらしいじゃないか・・・。しかしのぅ、ヤツらはワシらとは住んでる世界がまるで違う。同じ犬でもよ。おめぇさんの気持ちが伝わるかどうか・・・ちょい心配だわな」 「ほっといてくれよ。いいじゃないか、好きでやってんだから!」 雨は一段と激しくなり、あたりはあっという間に真っ暗になっていた。 「思い出すのぉ・・・」 「何を?」 「おめぇさんがワシらの仲間に入った時のことじゃよ。おぼえとらんのか? こんなドシャ降りの日じゃった」 「さぁ、忘れちまったな」 と、言いつつドシャ降りの雨を見ると何故かわびしさを感じる原因は、そょっとしたらそこにあったのかもしれない・・・とノラ犬は思った。 「ちぎれた鎖を引きずって、ヨタヨタ歩いて来た時には、あまりの小ささにそれこそ濡れネズミかと思ったもんじゃ」 ノラ犬は一瞬、ドキッとした。そして老犬に尋ねた。 「じゃあ、オイラは首輪をしてたのか?!」 「何じゃ、本当に忘れとったのかい? 生まれて間もない子犬のことじゃ。このままでは、すぐに大きくなって小さな首輪なんかしてたら、首がしまっちまう。・・・で、ワシがおまえさんの首輪をかみ切ったんじゃよ。・・・あの頃はワシにもまだ充分な歯があったからの」 首輪、母犬の声、そして考えていると自分と年格好がそっくりな、あの室内犬・・・。 ノラ犬は3匹目の子犬が自分であることを悟った。 |