第2回■山のタメ息 3/3
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聞き上手な小鳥は、山の話に耳をかたむけていたが、話が一巡したところを見計らって、こう言った。

「・・・山さん、あなたのお気持ちはわかります。でも、ひとつだけ大きな勘違いをされているんじゃありませんか?」

自分が言いたいことをすっかり話した山は、素直に小鳥の意見を聞く準備ができていた。

「と、言うと?」

羽を正した小鳥は、枝の端まで歩くと、サッと振り返りざまに言った。

「雲というヤツはね。何も自分の意志で世界中を飛び回っているわけじゃなんいです。風のふくまま、ただ流されているだけだ。時にはちぎれとんだりしながらね」

山には思ってもみないことだった。そして、自分の何百分の一、いや何千分の一の体しかない小鳥が、とても大きく感じられた。
小鳥は話を続ける。

「いつだって流されている雲にとっては、あなたを見下ろすことが唯一の優越感を感じられる時かもしれない。・・・でも、その程度のことです。あなたに、どんなイヤミを言おうが、ヤツは流されていくしかないのです。町の上に行けば、太陽をさえぎったとみんなにイヤな顔をされているでしょうし・・・ね」

山は心の中で大きくうなづいた。が、ふと山が「しかし・・・」と言いかけたところで、間髪入れず小鳥は、さらに話を続けた。

「しかし、山さん。あなたは違う。ただ、どっしりと構えているだけじゃない。あなたを包む森の木々は、私たちに果実を与えてくれる。ここを訪れる者たちは、四季折々に色づいた美しいあなたの姿を目に焼き付けていくことでしょう」

『昼間はイヤな奴に会ったけど、今夜は本当にイイ奴に会った』と山は思った。小鳥の話を聞いていると、昼間会ったイヤな奴でさえ、あわれなヤツに思えてくるほどだった。


翌朝は雲ひとつない青空だった。この雲ひとつない天気が山は大好きだったが、今朝はちょっと違っていたような気もする。

すっかり疲れをいやした小鳥は、ちょっとしたウォーミングアップをすると

「では、山さん。縁と命があったら、またお目にかかりましょう」

と言って、飛び立って行った。

その後姿をジッと見つめていた山は、ふと我に返ってタメ息をついた。

「ああ、鳥はいいなぁ・・・」

そして、頭上を見渡すと、とりあえず雲ひとつない天気で、やっぱりよかったと胸をなで下ろすのだった。

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