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「雲は、いいなぁ・・・」 山が思わず、そう呟いた時、右のすその方にかすかなくすぐったさを感じた。 山をくすぐったのは、暗くなって飛べなくなった一羽の小鳥だった。 山が自分の存在に気づいたことを悟った、その小鳥は丁寧に挨拶をすることにした。 「山さん、こんばんわ。私は渡り鳥です。今日は、もう暗くなってしまって、これ以上先に進むことができないので、どうぞ一夜の宿をお貸しください」 山は静かに答えた。 「それは、お疲れでしょう。どうぞ、どうぞ」 仮にイヤだと思ったところで、自分には小鳥一羽追い返す手だてはない。どうせなら、親切にしてやって、枝のひとつも折らないようにしてもらった方がいい・・・と山は考えることにしていた。 「ご親切にどうも・・・」 緊張していた羽を休めた小鳥は、ひと呼吸おくと、山に話しかけてみた。 「いいところですねぇ、ここは。自然が満ちあふれていて・・・、何て言うか、こう生命の息吹が感じられるところです」 小鳥の素直な言葉すら、イヤミにとってしまうほど、山の神経はとがっていた。 「いくら生命の息吹があったところで、動き回るわけにはいかないけどね」 小鳥は、わりと勘のいいヤツで、初めて出逢ったこの山が、ふだん何に不満をもっているのかということを即座に感じとることができた。 「まぁまぁ、そうおっしゃいますな。動き回れたところで疲れるだけ・・・ということもあります。あなたのように、どっしりと構えていらっしゃる方が、ずっといいこともありますよ」 小鳥の意外な返答に『こいつは悪いヤツじゃない』と山は思った。もちろん、自分にとって。 「いゃあ、初めて会った、あなたにとんだ愚痴を聞かせるところでした」 「いいんですよ。こうして、ご親切に一夜の宿をお借りしてるんですから、私でよかったらお話しくださいな」 山は、その言葉にすっかり甘えてしまって、ふだん雲の話を聞かされていること、それに対して自分が感じていることをせきを切ったように小鳥に話しはじめた。 |