Episode No.537(20000517):日本のロックウェル
ノーマン・ロックウェルという画家がいる。
『サタデー・イブニング・ポスト』の表紙や、確か昔のコカ・コーラのポスターなどを描いていた。
古き良きアメリカを描かせたら右に出る者のいない巨匠。
残念ながら1978年に84歳で死去しているが・・・。
絵はがきとしても、よく売られているから、絵を見れば「ああ、この人か」とわかると思う。
私は、このロックウェルの絵が好きで、輸入モノの画集も2冊ほど持っている。
とくに好きなのは「Triple Self-Portrait」と題された自画像。
ギャンバスに向かう自分の後ろ姿と鏡に映る自分・・・そしてキャンバスに描かれた少し二枚目になっている自分・・・3つの自分が描かれているからトリプルというワケ。
この絵も有名だから、この内容で「ああ、あの絵」と思った人もいるかも知れない。
ロックウェルの絵には、まるで1コマ漫画のようなユーモアがある。
そして何とも言えない人間くさい暖かみが・・・。
絵画でも漫画でも文章でも、あるいは音楽でも・・・。
作品を作り上げるには、それなりに卓越したテクニックがなければ他人の鑑賞に耐えられるモノはできないだろう・・・。
しかし、そのうえで「作家」と呼ばれるためには・・・。
ひととおりの訓練を経たうえで、やはりその人に磨かれた人間性が不可欠に違いない。
これは何も創作作品に限らず、いわゆる普通の仕事についても同じなのだろうけれど・・・。
コトに創作的な活動においては、そのあたりがハッキリしてくるのだと思う。
日本のロックウェル・・・そう呼べる人を見つけた。
山田卓司という造形作家である。
この名前を聞いただけでピンときた人は、かなりのプラモデル好きか、あるいは『TVチャンピオン』(テレビ東京)のファンだろう。
山田卓司は造形作家・・・というよりプロモデラーと言った方が通りはいいかも知れない。
つまり、本来はプラモデルを作るプロなのだ。
1959年浜松市生まれ・・・今年41歳。
ミリタリーのプラモデルで知られるタミヤの『改造人形コンテスト』金賞受賞を皮切りとして、専門学校在学中には模型専門誌『月刊ホビージャパン』の執筆を開始。
一度、工業模型の制作会社に勤めるが、現在はフリーとして作品を制作・・・名だたる模型雑誌で次々と作品を発表している。
そんな彼が今年4月末に作品の写真集を出した・・・タイトルは『情景王』。
自らの子供時代の思い出を描いたノスタルジックな作品から、お得意の怪獣モノ、ミリタリーモノまでの代表作を集めたこの一冊は見応え充分。
見る者を関心させる出来映えなのは、もちろんだが・・・。
まるで、そこから情景音が聞こえてくるくらい・・・想像力を刺激する。
山田卓司がこの本のために作った新作「家族」は、まさにロックウェル作品を彷彿とさせる。
作業机に向かっている自分のところへ妻と娘が差し入れに来たところのジオラマを作っている自分のところへ妻と娘が差し入れを持っていている姿を6分の1で制作したモノ。
何だか良くわからない人は本屋さんで実際の写真を見てほしい。
趣味の雑誌コーナーにあるこの本の表紙を見れば一目瞭然だ。
技術を磨くコトは、時間と忍耐さえあれば誰でもある程度はできるかも知れない。
しかし、人間を磨くコトは、いくら時間やお金、それにともなう忍耐力があったとしても・・・
それなりの心がけがないと、できないんじゃないかな?!
でも、それは・・・
今この場で心がけようと思えば・・・決してはじめられないコトではない。