Presented by digitake.com

 

Episode No.535(20000515):奇跡を支える力

オペラ歌手、アンドレア・ボチェッリは1958年9月生まれというから、今年で42歳になる。

生まれはイタリア、トスカーナ州のピサ。
ピサと言えば誰もが思い出すであろう、あのピサの斜塔は、完成から650年・・・。
このままでは2001年には倒れてしまうというので現在修復中のようだ。

この地方出身のボチェッリが、オペラを歌い始めたというのは、すごく自然なコト。
漁村に生まれ育った子供が、つい大漁節を口ずさんでしまうようなモノ・・・らしい。

ただ歌うコトが好きなだけでは決して歌手にはなれない。
それをお金を出してでも聴きたいと思う人がいなければ・・・。
ボチェッリの歌声は周囲をそう思わせるに充分な力量があった。

しかし、天は二分をあたえない。

生まれつき弱視だった彼は12歳の時、サッカーの試合中の事故で光をまったく失ってしまった。
幼い頃からピアノ、フルート、サクソフォンの手ほどきを両親から受けていた彼の活動の場は、盲学校の聖歌隊に移されるコトとなる。

この歌声を聴いた同じイタリア人にロック歌手、ズッケロがいた。
伝説のロック歌手とも言われたズッケロには当時、ある企画があった。
それは、世界的に有名なオペラ歌手、バヴァロッティと自分の共演である。

ズッケロは、その企画を実現するためにデモテープを準備中。
デモテープ作成のために、盲目でしかもまったく無名だったボチェッリに協力をあおいだ。

無事、完成したデモテープをズッケロはバヴァロッティに聴かせる。
するとバヴァロッティは言った。

「一緒に歌っているヤツはいったい誰なんだ?
 君には僕なんかいらない。彼以上に歌えるヤツなんて他にはいない。
 素晴らしい歌を聴かせてくれて、ありがとう」

かくして、ズッケロと共にツアーに参加するコトとなったボチェッリの名は一躍有名になった。

これだけのエピソードを聞くと、まるで奇跡のようだが・・・。
その裏でボチェッリが人並み以上の努力をしていたコトは想像に難くない。

盲学校から地元ピサの大学に進み、法律学を専攻した彼は博士号まで取得し・・・。
卒業後の1年間は弁護士として活躍していた。
歌手へ転身したのは、その後の話である。

ボチェッリは小説家、
サン・デグジュベリの次の言葉を胸に歌い続ける。

「物事がちゃんと見えるのは、心でだけなんだ。目では本当のことは見えないんだよ」

2000年5月、東京・渋谷bunkanura オーチャードホールの舞台に立った彼は・・・。
2,150席(うち車椅子用12席)の観客すべてを、
オーケストラにも負けるコトのない声量と心にしみいる歌声で魅了した。


参考資料:「ARIAS オペラアリアの夕べ」主催=フジテレビジョン
     出演=アンドレア・ボチェッリ(テノール)、スミ・ジョー(ソプラノ)、リー・シーイ(ソプラノ)、
     チョン・ミョンフン(指揮)、新星日本交響楽団(演奏)   プログラムより

[ Back to TopBacknumberご愛読者アンケートBBS 御意見番BBS 保存版 ]