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Episode No.142(990209):王子さま・・・いまだ帰らず

70年以上前の話になる。

その頃、北アフリカにあるキャップ・ジュピーという土地の砂漠の真っ直中に、ポツンとフランスの航空機会社の飛行場があった。

航空機会社とはいっても、ライト兄弟が初飛行に成功してから30年とたっていない頃の話で、所有している飛行機は風防すらない複葉機。
郵便を運ぶことが主たる仕事だった。

この飛行場長は、アントワーヌという27歳の青年。

伯爵家の長男に生まれた彼は4歳の時に父親と、17歳の時には弟と死に別れたが、経済的には何ひとつ不自由のない暮らしを送った。

21歳の時、一族の反対を押し切って、当時は"死刑囚"と呼ばれていた憧れの飛行機乗りになった。

当時、彼の操縦する複葉機で目的地に向かう途中、砂漠に降り立った人の話。

「そこは、何もない高い台地の上でした。とても人が登って来られるような場所じゃない。もちろん、そこから歩いて降りるなんてことはできませんから、こりゃあ降りる場所を間違えた。すぐに別な場所に移動しようって彼に言おうとしたんです。ところが彼は飛行機に戻ろうとしない。彼が言うには『ここに降り立った人間は、きっとボクたちが初めてだろう』って・・・。で、しばらくすると彼は、しゃがみ込んで砂の上に何かを発見しました。それは小さな貝でした。『ここはきっと昔、海だったんだ』と彼は、ひどく興奮していました。そのうち、小さな石ころを見つけました。『これは宇宙から飛んで来た隕石かもしれない』。そうして私たち2人は、気がつくと砂の上に4つん這いになって、隕石探しをはじめていたんです。・・・つまらない砂の台地が、彼の言葉でいつの間にか童話の世界に変わっていたんです」

青年の名は、アントワーヌ。アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ。

郵便飛行会社から、飛行機製造会社のテストパイロットと、操縦桿を握るかたわら、地上にいる時にはペンをふるった彼は、飛行機乗りを主人公として作品を何作も世に送り出した。

40歳の時、出版社の招待でアメリカに渡った彼が、出版社の勧めに応じ43歳の時に出版したのが初の童話"星の王子さま"だった。

ベストセラー作家になった後も彼は操縦桿から離れることはなかった。

そして"星の王子さま"を出版した翌年。軍の偵察飛行隊のパイロットとして飛び立ち、そのまま消息を断った。

彼と彼を乗せた飛行機は、あれから55年経った今も見つかっていない。


参考資料:「学習まんが人物館/サン=テグジュペリ」鈴木一郎=監修 小学館=刊

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