Episode No.400(991207):信用がすべてのはじまり 「私はここであなたに部長という辞令を渡しますが、これは実は紙切れであって、ほんとうにあなたを部長だと決めるのは下の人だ」 ダイエーの中内功会長は、かつてそう言って部下に辞令を手渡していたという。 社会とは人間が集まって作り上げているモノ。 その社会において、いかなる分野でも頂点を極めた人はコミュニケーション・・・昔風に言えば、人情の大切さを忘れない。 そうでなければ、とてもまわりは押し上げてくれないだろうし、仮に無理な力で頂点を極めたとしても決して長続きをした例はない。 金権腐敗政治の汚名をひとりでしょって自民党を離脱した歴代初のB型宰相、田中角栄も金脈以上に人脈が力の源にあった。 それ故、党内に長がいないにもかかわらず、自民党田中派は増殖を続けた。 他の派閥の人数は多くても2ケタ代なのに対し、田中派は3ケタの圧倒多数を誇り、刑事被告人であるにもかかわらず角栄は脳梗塞で倒れるまでキングメーカーとして君臨した。 政治家にとって一番大切なのは何か? 実際のところは、理想的な政策をかかげるコトでもなく、献身的な努力をするコトでもなく、選挙に強い・・・というコトだろう。 サルは木から落ちてもサルだが、政治家が選挙に落ちたら政治家ではいられなくなる。 田中角栄は選挙となると全国の子分たちの選挙ポスターを集め、今は相続税の物納で敷地が大幅に減ってしまった目白御殿の一室に、そのポスターをすべて貼り巡らせた。 「俺は選挙ポスターを見ただけで、そいつの当落がわかる」 と豪語した田中角栄は、壁中に貼られたポスターを1枚1枚入念にチェックする。 ダメなものには即、刷り直しを命じた。 チェックポイントは、ただ一点。 鼻の穴を見せ、上を向いて威張りくさったようなモノはダメ。 有権者に向かって手を差しのべるような謙虚な姿勢が見えないようでは票を入れてもらえない。 親方角栄にダメ出しをされれば、子分は一も二もなく従うしかない。 但し、刷り直しで余分な費用がかさんでも、費用が足りなければ何も言わずに渡してくれる親分だったからこそ、黙っていても人はついて来たんだろう・・・な。
参考資料:「中内功語録」中内功研究会=編 小学館文庫=刊 「角栄語録の神髄/究極の人間洞察力」小林吉弥=著 講談社+α文庫=刊
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