Episode No.326(990911):目の前の現実に、こだわれ 自然淘汰・・・っていう言葉の響きは、なんとなく寂しい。 古き良き時代のモノが失われていく・・・というイメージが、どうしてもつきまとう。 でも常に流れている時の中で「古き良き」とは、いったい何時のコトをさしているんだか・・・。 考えてみるとよくわからない。 それは個人のノスタルジーであって、今の時代についていけなくなってしまった人が、自分が一番活躍していた時代をさして、そう言っている・・・ような気もする。 失われていく種、失われていくモノ、そして失われていく職業も数多くある。 ひとつの職業に頑固なまでの「こだわり」を持つ人は、よほどのプロだとは思うが、時として何のための「こだわり」なのかを見失っている場合も少なくない。 正二郎は、仕立物屋の次男として生まれた。 仕立物屋という職業は、今はほとんど耳にしないが、ようするにオーダーメイドのシャツや足袋など、身につけるモノを作って販売している店である。 無論、規格物の工業製品が世の中にあふれる前の話だ。 戦争から戻った兄と店を継いだ正二郎は、経営の合理化のために、製品を足袋一本に絞った。 この合理化は職人気質の父からは、ひどく叱られることとなったが、商売の方は反対にグングンと業績を伸ばし、正二郎19歳の頃には工場まで持つほどになった。 当時は、まだ珍しかった自動車を宣伝カーとして使い、さらに事業を伸ばしていった正二郎だったが、経営の合理化と宣伝活動だけでは成長に限界もある。 やはり、メーカーとしては新しい製品を作り出すことが重要になってきた。 そこで開発したのが"ゴム底の地下足袋"。 これが当たって、国内だけでなく海外にも販路を広げることにも成功した。 この時点で満足しなかったのが、正二郎の名を世に残すコトにつながった。 周囲の反対を押し切って、彼がさらなる研究に着手したのは"ゴム底の地下足袋"で得たゴム製造のノウハウをより新しい時代に活かす方法。 正二郎の名字は、石橋。 英語で言えば、ストーン・ブリッヂ。 それを逆さまにすると・・・。 こうして世界でもビッグ3と言われるタイヤ・メーカー、ブリヂストンはできた。 本当にこだわるべき問題は、常に目の前に現実としてある。 こだわりを言い訳に、古き良き時代を憂いでみても、世のため、人のためになる行動は生まれてくるはずもない。 今から110年前に久留米市に誕生した石橋正二郎は、今からちょうど23年前の今日、9月11日に亡くなった。 享年87歳・・・やっぱり成功した実業家は長生きだ。
参考資料:「日本経済新聞 1999.6.21 20世紀・日本の経済人25」
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