Episode No.279(990719):その一瞬をとらえろ! かつて、手塚治虫は「漫画は万国共通語」だと言った。 丸の中に点をふたつ・・・、その下に横線を引っぱれば、世界中どこの国の人が見ても顔だと思う。 その線を下に向かってたるませれば笑っている顔に。 上にはね上げれば怒っている顔に見える。 「漫画は記号である」とも手塚治虫は言った。 確かに、人間の顔は目と口だけではない。 いにもかかわらず、点と線だけで表情を伝えることができるというのは、記号かもしれない。 フランスの画家、ドガは1834年の今日、7月19日に銀行家の子としてこの世に生を受けた。 ハタチを過ぎてから美術学校に入り、古典的な絵画を学んだ。 後にマネやルノアールといった印象派の画家たちと親しく交流するようになり、彼らの展覧会にも作品を出したこともあったが、デッサンを得意としたドガは、線よりも色彩を重視する印象派とは、最終的には相いれないものを感じていたようだ。 ドガが得意としたのは、動いているものの一瞬をとらえて表現することだった。 そのため、彼が残した作品には競馬場の風景や踊り子の姿など躍動感のあるものが多い。 絵画の基本は何といってもモノのカタチを正確にとらえるデッサンだが、静物画ならともかく、動き回るものをジッと観察して描くというわけにはいかない。 まるで、写真でも撮るように一瞬を肉眼でとらえ、脳裏に焼き付けたイメージを瞬時に描いていくのは、厳密に言えばデッサンというより、クロッキーと呼ばれる。 登場人物たちが、つねに動き回る漫画の世界は、デッサンはもとより、このクロッキー感覚を持ち合わせていないと、躍動感を表すことができない・・・というのは、手塚治虫や石ノ森章太郎が漫画の書き方という紹介している。 もし、ドガの時代に漫画があったら、ドガは美術学校ではなく漫画家かアニメーターになっていたかもしれない。
参考資料:「今日は何の日」PHP研究所=刊 「21世紀こども人物館」小学館=刊 ほか
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