今でこそワープロやパソコンで打たれた原稿は珍しくもないが、ほんのひと昔前まではワープロで打った原稿を提出すると関心されたモノだ。
中には「活字になった原稿は直しづらいから手書きにしろ」と怒った人もいた。
そういう人に限って、ワープロで印字された文字に慣れてくると「手書きの文字は読みづらい」なんて言うようになるモノだが。
人間の感覚は、かように不安定でアテにならないことが多い。
その人間が作り出した世相や国家もまた例外ではない。
ダイオキシン問題も持ち出すまでもないが、まわりが良しとすればイイし、みんながダメと言えば、何となくダメになる。
最期のロシア皇帝、ニコライ2世は、皇太子時代に訪日したことがある。
明治24年(1891)のことだ。
滋賀県大津町に立ち寄った際、こともあろうに警備にあたっていた巡査がニコライ2世を斬りつけるという事件が起こった。
世に言う"大津事件"である。
巡査の動機は「ロシアが日本を侵略するために、皇太子がスパイに来たのだ」というもので、不安神経症と考えざるを得ない。
皇太子のように目立つ存在のスパイがいるわけはない。
当時、政府は日露関係の悪化を恐れて、巡査に死刑を要求したが、時の大陪審長は司法の独立を守るため、その要求を蹴って、巡査を無期懲役とした。
だがその後、状況は一転。
ロシアとの関係が悪化して戦争の気配が近づくと、例の巡査は"愛国の志士"として評価されるようになった。
いかに会社や世間が・・・たとえ国家の見解と言えども・・・"絶対"はない。