でじたけの「人生日々更新」命を考える夏休み〈2〉

Episode No.7179(20210813)[日記]Diary
命を考える夏休み〈2〉

三島由紀夫はインタビューで…

死体を100見たから偉いとは言えない
残酷さを学ぶには
ひとつの死体で充分だ

…と言っている

戦争を知らない世代であっても
戦争の悲惨さ
死んでゆく人たちの無念さを
想像することはできる

たった1人の人間が
この世からいなくなることが
いかに大変なことかを

自分は身近な
友人の死によって学ばされた

幸いなことに
60年近く生きてきて
人が息を引き取る瞬間に
立ち会ったのは
17年前の春…ただ一度だけ

幸いなことに…と書いたが
何が幸いかと言えば

そういう目に遭わなかったことが
幸いであるだけでなく

そういう目に遭い過ぎて
たった一度の大切な経験が
薄まることがなかったのが幸いなのだ

森を意識すると
葉っぱは見えなくなってしまう

17年前の春に亡くなった盟友とは
2人で作った会社で働いて
同じ時期に
同じ内容の健康診断を受けていた

奴は自分のガンが発覚して
入院を余儀なくされた時…

「俺とおまえが逆じゃなくてよかった」
…と言った

もし逆で稼ぎ頭の自分が
入院するようなことになったら
会社が立ち行かなくなってしまう
…そういう意味だった

自分は死の宣告を
受けていたというのに
よくもそんなセリフが言えたものだ

ありがたかった
そしてそれに応えるために
必死で働いて
入院中のあいつの給料を増やしてやった

奴はひどく恐縮していたが…
「俺の給料の方が増えてるから大丈夫」
…と言うと

「ならいい
 幸せなガン患者だ」
…と笑った

いよいよ打つ手がなくなって
ナースセンターの
奥にある緩和ケアの病室に移った時

見舞いに顔を出したものの
何を言っていいかわからなかった

その苛立ちが手助けして
ふとこんなことを言ってしまった

「おまえはここで24時間
 キレイな看護婦さんに囲まれて
 いざとなれば駆けつけてもらえるけど

 俺は明日も首都高の大渋滞にはまる

 そこで大地震が起きたら
 俺のが先に死ぬかもしれないんだからな」

…奴は笑って言った
「おまえは
 そういう風に言ってくれるから嬉しい」

あいにく大地震は起きなかったけどな

奴の命日のその日から
ちょうど7年後に東関東大震災が起きた

311は自分とって
東関東大震災の7年前から特別な日になった

〈つづく〉

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