Episode No.4167(20111230)[偉人]Great man

少年時代
Boyhood.

六大学を出た奴じゃないと娘はやれん
…と豪語していた義父だが、20年前、
およそエリートとはかけ離れた私が
末娘をください…と現れた時には、
家が近所だから、という理由(?)で、
すんなりと結婚を許してくれた。

その後は…
自分で商売をしていれば派閥は関係ない。
だから学歴も関係ない
…とむしろ擁護してくれるようになった。

それでも末娘の婿としては、
義父と会うのは常に緊張感の伴うことだった。

義父は酒を呑まない。

呑めば何とかなる…という
コミュニケーションを得意とする私には、
とても歯が立つ相手ではなかった。

義父の趣味は釣りとゴルフ。
私は、その両方ともやったことすらない。

ただ、絵を描くことと…
ビデオの撮影・編集をすることにおいては、
共通の趣味が見いだせた。

とくにビデオ編集。

今のようにパソコンで編集する前の時代の話。

確かに義父は新しもの好きではあったけれど、
今にして思えば、
義理の息子である私と何かひとつくらいは
共通の趣味を持ってやろう…と
考えていてくれたのかもしれない。

義父の郷里は四国・今治である。

私が結婚してしばらくして、
カミさんの姉兄夫婦も連れ立って、
夏休みに四国へルーツ探訪の旅をしたことあった。

すっかりビデオカメラマンであった私は、
後日、旅行記を編集してBGMを入れて贈った。

エンディングに使ったのは井上陽水の「少年時代」。

義父が少年時代を駈けた景色をバックにかかる
この曲を義父はすごく気に入ってくれて、
後に義母に向かって、
「わしの葬儀で送り出す時には、
 この曲をかけてほしい」とまで言っていたとか。

そして…夏の想い出の曲を、
冷たい風の吹く季節に聞くことになってしまった。

わずらわしい肉体から解き放たれた魂は、
故郷の景色をもう一度眺めてから旅立つに違いない。

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