Episode No.4090(20111001):[伊豆紀行] 天城 岩砕木
最初にお断りしておくが、今回のタイトル「天城 岩砕木」をネットで検索しても、そこへの行き方どころか、このホームページ以外の情報は何も得られないだろう。何故なら、伊豆・天城の山中にあるその樹木に、ひとまず“岩砕木”と名付けたのは、この私だから。 何故かここ数年、秋分の頃となると、伊豆の地で圧倒的な迫力をもった樹木が私の目の前に現れる。もちろん樹木が向こうから歩いてくるはずはないので、私がその樹木のところまで訪ねて行っているわけだが、とくにガイドブックを見るでもなく、たまたま歩いて出逢った樹木ばかり。ただ、その前に立つと、あたかも説明のできない未知のエネルギーに吸い寄せられた気がしてならない。 昨年出逢った強烈な個性を放つ樹木のことは、ここに記録した。…◆大室山の御神木に出逢う さて、今年の秋分の日の翌日は晴天。ただ、放射冷却のせいで気温はグッと下がり、富士山では例年より6日、去年より1日早く冠雪が観測されたとラジオが伝えていた。車は国道135号線を下り、河津から天城方面に入った。 途中、「水神社」を経て、一度訪ねてみたかった伊豆の踊子の舞台となった宿「福田家」周辺でひと休み。台風による倒木のおかげで一つの滝も見学できない「七滝」で昼食をとった。あとは天城を越えて横浜までのんびり帰るだけだ。 「七滝」には滝を見に寄ったわけではなく、あくまでもメシを食うために寄っただけだったのだが、一つも滝を見ることができなかったおかげで、何だか妙に滝が見たくなった。有名な「浄連の滝」の駐車場には土産物屋があるので結構混んでいる。2008年に閉鎖してしまったというバリケードで覆われた「いのしし村」など見ながらぼんやり山道を走っていると、「二階滝」と書かれた無料駐車場が目に入った。真新しいトイレがあった。最近整備された駐車場かもしれない。 「二階滝」まで400mとある。せっかくなので、そこから山中のハイキングコースにちょっと足を踏み入れてみることにした。最初はそんなごく軽い気分。食後のほんの散歩のつもりだった。 無数の巨木が天を仰いでいる。台風のせいもあってか、急斜面では根元の土が流れ落ち、真っ直ぐに伸びた幹とは対照的に、うねるような根が縦横に張り巡らされているのが見える。 それはまるで蛸の足のようにも見え、今にも動き出しそうだ。 ゴーッという水音がかすがに近づいてくる。道のわきから二畳ほどの展望エリアが突き出していて、真正面に落差20mの巨大な滝が見えた。 さらに山道を登ると、今度はさっきの滝のちょうど上に来た。ここも一応見学できるようになっているらしいのだが、あまりに滝に近すぎるうえ、足下は濡れた泥のようで極めて危険だ。ちょっとでも滑ったらひとたまりもなく滝壺まで落下してしまうだろう。自分のほかに誰一人観光客の姿はない。もし落ちたら、しばらくは発見されないだろうな。 こんなに間近で滝を見ることもできたので、駐車場まで戻りかけたところで、看板が目に入った。「旧天城トンネルまで1,600m」。そういえば、この天城にも何度が来ているのに、あの有名な旧天城トンネルは、まだ一度も見たことがなかった。時間もまだある。それほど遠くはなさそうだし。よし、行ってみよう…ということに。 ところが山道の1.6kmは、ちょっとやそっとで辿り着ける距離ではなかった。片道30〜40分はかかったと思う。それでも、ここまで来て引き返すのも、もったいないと思いつつ進む。 とはいえ、決して嫌々道を踏みしめていたわけではなく、むしろ景色…いや、樹木の美しさを堪能しながら、時の経つのを忘れて進んで行けた。樹木のまるでギリシャ彫刻のような一瞬の筋肉の盛り上がりにも似た造形。これだけ見渡す限りの森にいて、同じ形をしたものなど、ただの1本もない。文字通り、彫刻の森だ。 さすがに旧天城トンネルにたどり着いた時には、450mある真っ暗なトンネルの向こうまで行って再び戻ってくる気はしなかった。 ここから駐車場まで戻る。帰りは、先の見えない行きより早く戻れる感じがする。それに行きがけに見つけた“あるもの”を、もう一度ジックリと眺めたいと思っていたので、足取りは軽くなった。 道路際の何の囲いもない斜面にそれはあった。 この写真で見ると画面の中央からやや左上に1本の横になった幹から同じくらいの太さの幹が上に向かって伸びているのがわかると思う。横になった幹は巨大な岩陰にかくれている。この岩は道からざっと高さが10m近くあるのではないだろうか…。 その岩を正面から見るとこうなっている。 3本に別れた幹、そして岩の上に立つ木。これらはすべて、この岩から生えているのだ。 木と岩が一体化している。…というより、岩を砕いて、木が力こぶを見せているようだ。 本当に、普通にそこにある岩と樹木なのだが、こういう大自然が作り出した神々しい姿を目にすると、思わず合掌したくなってしまう。 この岩にしめ縄でもまわして、案内板でも立てたら…立派な観光スポットになるだろうに。 少し遅めの昼飯を終えて、食後の散歩のつもりが…駐車場に戻った頃には薄暗くなりかけていた。 了 Copyright 1998-2011 digitake.com. All Rights Reserved. |
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