Episode No.2823(20070907)
或る異人の落とし前

移民の子である彼は、
その国の言葉がうまく喋れなかった。

一生懸命話そうとしても、
イントネーションはどことなくおかしいし、
それを隠そうを必死になると
今度はどもってしまう。

体の小さな可愛らしい子であれば、
まわりもきっと手加減してくれたに違いないが、
彼は同年代の中では体は図抜けて大きいし、
しかも厳つい顔つきをしていた。

そんな一見怖そうな奴が、
まともに喋れずにオドオドしているものだから、
友達はよけいにからかった。

そして彼は・・・大きく傷ついた。

子供の頃に
一度でもバカにされた子供は、
どうすれば自分がバカにされずに済むかを
必死で考える。

本来、誰でも世間に出ようと言う時には、
それを必死で考えざるを得ないのだが・・・
子供の頃の経験は、
ほぼ本能的なものとなって宿る。

考えて出た答えより強いのは・・・そこだ。

教育に目を向けた彼は
小学校の教諭になるが・・・
それが天職とは思えなかった。

いわば教諭という職業は
・・・考えて出した結論だったのだ。

かつて彼は
厳つい顔な故、
恐れられ、そして笑われた。

ならば、それをもっとアピールしてやろう。

彼は鏡に向かうと
自分の顔を悪魔のようにメイクした。

そして親友とバンドを組み、歌い
・・・観客を熱狂させた。

今や成功者となった彼は・・・
人生について素顔で講演もしている。

そして、こう言う。

「俺は毎朝鏡に映る自分の顔を見て思うんだ。
 ああ、ジーン・シモンズに生まれてきて
 本当によかった、と」

今日の話は・・・ハードロックバンド
KISSのジーン・シモンズの一代記・・・だよ。