Episode No.1138(20020418):ヘッドライト・テールライト

バスに乗ると・・・
地元の人たち向けに「いちご狩りツアー」だの何だのと
バス会社が企画した小旅行のポスターが貼ってあったりする。

最近はあまりバスにも乗らないので、よくわからないけど
昔は、たいていその手のポスターは手書きで
コピーじゃなくて、青焼きされたものが貼ってあった。

今はもう・・・
パソコンからプリントアウトしたものになっちゃってるのかな?

手書きのポスターは、すごい達筆で
筆で書かれていることがわかった。

これだけ筆が立つとなると・・・
書いているのは若者じゃなくて、そこそこの年齢の人だろう。

そんな手書きのポスターを見ながらバスに揺られていると
つい、こんな想像が頭をめぐる。

これを書いている初老の男は・・・
昔はバスの運転手だったけど、今は内勤になった人で
人づきあいは不器用、事務仕事も苦手。
事務所内の娘ほど歳の違う女子社員たちからは・・・
「電話もとれないクセに自分たちより給料がいい」
なんて陰口をたたかれていて
その男にお茶を入れるのは・・・
いつもジャンケンで負けた女子社員に決まってる。

ちょっと気の強い若い男性社員からは
あからさまに邪魔にされたりするが・・・絶対に怒らない。

しかし・・・
バスの中に貼るツアーのポスターは
この初老の男性じゃないと書けない。

次のポスターの概要が書かれたメモが渡されると
初老の男は、おもむろに自前の書道セットを取り出す。

ポスターを書くのに決して時間はかけない。
サッサッと書き上げて・・・
「A案、B案・・・どちらがいいかね?」
なんて言いながら持ってくる。

この時ばかりは・・・スター。
女子社員たちが男を見る目も違うし
本人の目もキラキラ輝いてる。

生きがいって・・・案外こんなもんなんじゃないかと思う。

あくまでも・・・想像だけど、ね。


参考資料:A面「地上の星」