THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行28 7/8


■春一番

どうせほかには借り手ののいない会場・・・。
岡崎の司会もなかなか名調子の連続で、披露宴はそのまま二次会に突入したかと思われるほど大いに盛り上がった。

宮田夫妻は、何とか最終電車で自宅の最寄り駅にたどり着いた。

「あなた・・・明日も早いんでしょ? タクシーで帰りましょうか?」

「いや、歩こう。・・・それとも着物じゃ歩きづらいか?」

「いえ、そんなことはないですけど・・・」

「じゃ、歩こう」

幸い吹く風は、もう暖かさを感じさせるほどだ。

「春一番・・・もう、吹いたのかしら?」

「いゃあ・・・まだ、だろう」

「そうかしら? こんなに暖かくなってきたのに」

「そういえば最近、風が強いね」

「ええ・・・強い風が何度も吹きました・・・ね」

妻は、ちょっと宮田の顔をのぞき込んでみた。

「いい式でしたね」

「ああ・・・おかげで、いい式ができた・・・。ありがとう」

「何がです?」

「何がって・・・りっぱに媒酌人をつとめてもらったし・・・それに」

「?」

「眼鏡のことも・・・。本当に助かったよ」

「いゃだ、当たり前じゃないですかぁ・・・私、あなたの妻ですよ」

「それでも・・・さ」

「私こそ・・・ありがとうございます」

「何が?」

「あたなが風に飛ばされないで・・・」

「俺は飛ばされちゃったじゃないか・・・ジェーケー物流に」

「それは宮田課長のことでしょ?! 宮田浩一郎は、やっぱり私といっしょにいるじゃない」

「・・・・」

「よく似合いますよ。その銀ブチ眼鏡」

「!」

「ベッコウのも悪くなかったけど・・・今のあたなには、その方がずっとよく似合うって・・・私は思うなぁ」

「じゃあ、新しい会社では・・・銀ブチの宮田でひとつ頑張るかぁ・・・」

「ところで・・・」

「ん?」

「今度のあたらしい会社・・・」

「ああ」

「・・・若い女子社員は何人くらいいるの?」

「えっ?」

思わず立ち止まって硬直した宮田を見て、妻が大笑いをはじめた。

「な、何だよ?」

「キャハハ・・・ごめんなさい。だって、あなたがあんまり真剣な顔するからおかしくって・・・」

「べ、別に・・・いいじゃないか」

「別にいいですけどぉ・・・。ねぇ、あなた。キレイでしたね、三村さん」

「まぁね」

「ホントはすごくキレイだったと思ってるクセに」

「・・・思い出したよ」

「何をです?」

「あのドレスを着ていた・・・おまえのことをさ」

「やめてくださいよぉ、今度はこっちが真剣になっちゃう」

「真剣にさ・・・思い出したよ」

「あなた・・・」

「ん?」

「あなた、本当は娘もほしかったんじゃありません?」

「ん〜、そうかも知れない・・・な」

「私はいいんですよ」

「え?」

「今から作ったって」

「バ、バカ!」

「ええバカですよ・・・こんなあなたとずっといっしょにいたいと思うほどね」

夜道をいく2つの後姿は、おがて寄り添って・・・ひとつの陰となって進みはじめた。


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