THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行28 8/8


■・・・その後

宮田は木下の協力のもと、予定通り解体作業を終えることができた。
4月からは毎日片道3時間近くかけて川崎から埼玉まで通う日々。
しかし、会津と同じ作業服姿もあっという間に板についた。

木下は新しい産業廃棄物の会社で死にものぐるいになって働き、5月のゴールデンウイークあたりになって少し体調を崩してしまったが・・・。夏前には念願の10トン車を購入。夏休みには、引き取った娘といっしょに、仕事がてら全国縦断の旅に出た。

かつて木下の愛人だったセイコが、念願のイタリアから宮田に向けて絵はがきを送ってよこしたのも、夏のことだ。

大阪に行った柳と三村は小さなアパートで新婚生活をスタート。
三村しよりは正式に柳しよりとなった。
しよりは柳の会社と自宅との中間ほどにある弁当屋でパートをはじめ・・・。
柳は毎日のようにその弁当屋に昼食を買いに行っていた。

会社では6月の株主総会で社長が業績悪化の責任をとって辞任。
それと同時に再びリストラで何十人かの社員が社長の道連れにされたが・・・残った柳たちにとっては、かえって仕事はしやすくなったようだ。

高校に入った宮田の息子、良樹は何を思ったか演劇部に入部。
クラブ活動に熱中しはじめた頃には、すっかり年上の彼女、クミのことも忘れて・・・。
かわりに同じクラブの同級生に・・・惹かれはじめていた。

そういえば、父親からもらった携帯電話の留守電に・・・。
3月の末頃、女性の声でこんなメッセージが残されていたのを聞いた。

「課長・・・ありがとうございました。あ、これで最後にしますから・・・。
 今だけ、コーちゃんって呼ばせてください。

 私、コーちゃんと会えて本当によかった。
 コーちゃんのいいところは、たくさんあり過ぎて・・・言葉で言えないくらいです。
 私のつまらない話も親身になって聞いてもらえたし・・・。
 一時はコーちゃんがいないと生きていけないと思うくらい・・・本当に好きでした。

 コーちゃんと2人きりで出かけた時には、もうどうなってもいいって、ちょっと思ったくらい。
 だから、なかなか2人の仲が先に進まなかった時には・・・。
 いくじなし! なんて勝手なことを思ったりしたことも正直あったけど・・・。

 いくじなしなんかじゃなかったのね。
 そのことが奥さまとお会いして、よーくわかりました。
 私もコーちゃんの奥さまみたいになれたらいいな・・・。
 ずっと愛してもらえるような。いい奥さんに。

 このメッセージは一度聞いたら必ず消してくださいね。恥ずかしいし・・・。
 奥さまに聞かれたら大変ですもの。

 それじゃ、さようなら・・・私のコーちゃん」

あいにく、このメッセージを聞いたのは良樹だけ。
そして、こういうメッセージがあったことを・・・良樹は宮田には言わずじまい。

でも、少しだけ・・・いや、かなり。息子は父を見直した。


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