THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行28 4/8


■控え室のふたり

新婦の控え室にも三村の両親をはじめ、親類が集まっている。
人数は柳の親類ほどではないけれど・・・。

純白のウエディングドレスに身を包んだ三村は、やはりどことなく緊張したおももちだ。

「奥さま・・・本当にありがとうございます。こんなステキにドレスまで貸していただいて」

「よく似合うわよ。ホント・・・若いっていいわね」

「奥さんも充分お美しいじゃありませんか? な!」

会話に入ってきたのは羽織袴に身を包んだ・・・一見ヤクザの親分風に見える三村の父だ。

「そうだ! ご主人にもご挨拶をしてこないと!」

そう言って、三村の父がおとなしい夫人をともなって部屋を出ようとすると、親類の者たちも「そうじゃ、そうじゃ」と口にしながらゾロゾロとそれに連なって出て行ってしまった。

控え室の中が急に静かになった。
残されたのは三村と宮田の妻のふたりきり。

「主人は、あなたのことをずい分気に入っていたようね・・・」

「優しい、いい上司です。宮田課長は」

「あなたのこと・・・好きだったと言ってもいいくらい」

「私も好きですよ、宮田課長のこと」

「本気でね」

「・・・・」

「本気で一生懸命になることが好きなのよ、うちの主人」

「そうですね。課長はいつも一生懸命・・・」

三村の脳裏に、ふとここ半年あまりの宮田と過ごした思い出がよみがえってきた。

「そうそう・・・」

宮田の妻は手にした小さなハンドバックを開いて、中から何かを取り出して見せた。

「これ・・・ひょっとしたら、あたなのじゃないかしら?」

それは、三村が以前なくしたと思っていたイヤリングの片方だった。
すごくお気に入りのイヤリングだっただけに、ずい分と悔しかったのを覚えている。

「どうして、これを?」

「やっぱり・・・ね。半年くらい前だったかしら・・・拾ったのよ」

「?」

「うちの車の中で」

半年前といえば、去年の秋。宮田と初めて2人きりでドライブをした頃の話だ。じゃあ、あの時・・・!
三村は思わず息をのんだ。

「奥さま、ごめんなさい。でも私、課長とは・・・」

「その先は言わないで。・・・私の方こそ、こめんなさい。こんな、おめでたい日に変なお話しちゃって」

「本当に・・・」

「本当にどんなことにも一生懸命になっちゃうところがあるのよね、あの人。それが欠点でもあるんだけど」

「欠点だなんて、そんな。すばらしいことじゃないですか?!」

「もちろん、それがあの人のいいところだっていうことは、充分わかってるつもりよ」

「・・・・」

「長年連れ添った・・・妻ですもの」

「私も・・・奥さまみたいに、なれるかしら」

「もちろん、なれるわよ。・・・宮田が見込んだ方ですもの、ね。・・・ほら、笑って」

三村は唇に少し力を入れて・・・微笑んでみせた。


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