THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行28 3/8


■幻の料理人登場

幸いにも電車の乗り継ぎがよく、会場には予定通りに到着することができた。
会場は、窓に貼り付けられていたベニヤが取りはらわれて、廃屋だったイメージもすっかり消えていた。

中に入ると、タキシード姿の会津がキビキビと動いている様子が目に入った。

「宮田さん! どうです? カンペキでしょう?」

「会津さん・・・本当にありがとうございます。しかし、似合いますなぁ、タキシード」

「これを着るとね、やっぱりシャキッとしちゃいますな。宮田さんこそ、よくお似合いで・・・」

「いや。わ、私は・・・。あ、これ、うちの家内です。こちら会津さん。4月からは正式に同僚になる」

「いつも主人がお世話になっております」

「これは、お美しい奥さまをお持ちで・・・ヒジョ〜にうらやましい。会津です。こちらこそ、お世話になっております」

ふと受付に目をやると、山本のほかに、あのOL2人組がいる。

「おお、来てくれたかい? 2人とも」

「一応、私たちも課の一員ですから」

「もちろんだとも」

「これからもしばらく会社にお世話になるつもりなんで、付き合いが悪いと思われたくないし・・・」

「・・・・」

「それに課長にも、ただの仕事のできないOLだと思われたまま別れるのイヤですから」

「・・・・ありがとう」

背後から再び会津が声をかけた。

「宮田さん・・・。じゃあ、奥さまには新婦の控え室に行っていただくことにして・・・」

「もう、2人は着いているんですか?」

「もちろん。宮田さんには先に本日のシェフをご紹介いたしましょう」

妻を新婦の控え室までおくると、宮田はそのまま会津について厨房へ向かった。
本当は三村の姿をひと目でも見たかったが・・・どうせ、すぐに会うことだし。
でも、ちょっと見たかった。

厨房には5〜6人の料理人がせわしなく動いていた。
中で一番長い帽子をかぶっている男に会津が声をかける。

「味沢くん。今日の式を仕切られる媒酌人の宮田さんだ」

「どうもシェフの味沢です」

「いゃあ、ご無理なお願いをして申し訳ない。だいたいフタをあけてみるまで集まる人数が何人になるのかもわからんのに・・・やりづらいこととは思いますが」

「人数に関しては、この会場に入れる最大人数を計算してますからご心配なく。そのかわりメニューに関しては、披露宴がはじまった時点で人数に合わせて変えていきますから、その点はご了承を」

「そうですか・・・しかし、せっかくのお料理が余ってしまっても申し訳ないですし」

「いゃあ宮田さん。味沢くんの作った料理は、これまで余ったところなど見たこともない。彼にまかせておけば大丈夫ですよ」

「そんなスゴ腕のシェフの方じゃあ、依頼料もお高いんじゃあ・・・」

「それは聞かない方がいいですな、宮田さん。私はお世話になった会津さんの頼みだから来たまでのこと。お話が済んだら会場の方へ行っいてもらいたい」

「わ、わかりました。それじゃあ、よろしくお願いします」

厨房を出た宮田は、新郎の控え室へと向かった。
トビラをあけると、そこには入りきらないほどの人たちが、ひしめいている。

「あ、課長! お世話になりま〜す!!」

奥の方から立ち上がった柳が手を振った。
柳のタキシード姿は、まるで七五三のようにも思えたが、似合わないこともない。

「お、柳くん・・・この方々は?」

「みんなうちの親戚です」

これは・・・とりあえず料理が余る心配はなくなった。


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