THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行28 2/8


■友からの電話

上着の方は、とりあえず大丈夫だった。
宮田はYシャツに蝶ネクタイ、その上に上着をはおって・・・下半身にバスタオルを巻いた。

「いやだぁ・・・この間、着たの、いつでしたっけ?」

「木下の結婚式ん時はラフな格好でと言われたから・・・10年くらい前かな。そうだ、オヤジの葬式ん時以来。しかし、ここまで体型が変わってしまっているとは・・・」

「どうします? 式場で借りることにしますか?」

「いや、そういうわけにはいかんよ。正式な式場じゃあないからな、そんな準備はない。しかし、参ったなぁ・・・」

「でも簡単には直りませんよぉ・・・これ」

「よし! とにかくはけないとマズイから・・・このお尻の上んとこハサミで裂いちゃって、タコ糸かなんかで結んで、せめて前からはちゃんと見えるようにしてくれよ。上着を着てればわからんだろ?!」

「ありませんよぉ、タコ糸なんて」

「じゃあ、ビニールのヒモでも何でもいい。もうボチボチ出なくちゃなんないから」

「そんなことしたら二度とはけなくなっちゃいますよぉ」

「いいんだ。・・・今日一日、何とかなればいいんだ」

「・・・じゃあ」

電話が鳴った。おそらく、会津か岡崎からだろう・・・そう思いながら宮田は受話器をとった。

「おう! 宮!!」

「木下か!」

「ああ、その後・・・どうだ? 例のパーティだっけ、式だっけ・・・はうまくいったか?」

「実はそれが今日なんだが・・・」

「今日かぁ、まぁ頑張れよ。・・・俺もとりあえず次の就職先が見つかったんで」

「次の?」

「言ってなかったけっけ? 辞めちゃったんだよ、前のとこ」

「ひょっとして独立するつもりで辞めたんじゃあ・・・すまん」

「気にすんなよ。まぁ、もう少し金の見通しがついてから考えることにしたんだ」

「で、今度のとこって・・・やっぱり運送屋か?」

「いや、同じトラックの運転手には違いないんだけど・・・運送屋は今、競争が激しくてな・・・忙しいだけであんまり儲からないんだよ。でも同じトラックでもいい稼ぎになる業界はあって」

「どんな?」

「産廃だよ。産業廃棄物」

「産業廃棄物なぁ・・・そりゃあ確かに、今いろいろとうるさいし・・・。産廃? ひょっとして解体した建物なんかも運んだり・・・」

「もちろん、今度の会社は産廃業者としては新しくできたばっかりだけど、親会社が建設関係で」

「そうか! 実はな、木下。今、ちょっと悩んでることがあって」

「今? 何言ってんだ、いつも・・・だろうが?」

「からかうなよ。実は・・・」

思いもかけず、解体業者の問題は木下のツテで何とか目処がつきそうだ。

「やっぱり持つべきものは友達だな」

「前にも、そんなこと言ったこと・・・あったな」

電話を終えてリビングに戻ると、礼服のスボンの後は・・・無惨な姿になっていた。

「とりあえず、はいてみてください」

「あ、ああ」

スボンをはいて、前のチャックをしめる。後にまわった妻が、あらかじめ空けておいた穴にビニールのヒモを通して何重にも結んだ。

「うん、やっぱり何とかなった」

「でも、あなた・・・かがんだりすると破けちゃうかも知れないわよ、お尻」

「わかった・・・注意するよ」


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