THE THEATER OF DIGITAKE

■前話の最終ページ


最終回 春一番

■媒酌人の朝

とうとう、この日が来た。

3月26日、日曜日・・・宮田浩一郎が、三村と柳のために自ら企画した結婚式の日だ。
宮田が課長として資材調達課のメンバーをまとめる、事実上、最後の日ともなる。
はたして課の連中は何人くらい集まってくれることか・・・。

人事部長にタンカをきったものの、まだ肝心の解体業者も見つかっていない。
問題は山積みだ。

しかし、とにかく今日一日。媒酌人として、また課長として、自分の大役をはたすことが、まず大事。
何よりも自分の人生に対するケジメとして・・・。

媒酌人の挨拶は、もう完璧にマスターした。
キリスト教式の挙式では、最前列でそれを見届けるだけだし、披露宴では新郎新婦の入場を先導して・・・。
最初の10分、この挨拶さえ済んでしまえば、あとはどうということもない。

挙式をしてくれる鈴木は・・・大丈夫だろうな?
最も聖書の言葉を多少間違えたところで、気づく者もいなとは思うが。

司会は課の岡崎が買って出てくれた。
ヤツは仕事はたいしてできる方ではないが、こういうことに関しては信用がおける。

受付は山本。彼女もすぐに自分の挙式があるから、人ごとには思えないのだろう。
最も彼女の場合はハワイで挙式をする予定らしいが。

テーブルのセッティングや料理に関しては、ジェーピー物流の会津がプロの腕前を発揮してくれる。

朝一番に着物の着付けに出かけた妻が戻ってきた。

「あなた、どう?」

妻の着物姿を見るのは、良樹の小学校の入学式以来。
中学になってからは着付けが面倒だとかで洋服だったし。

「ああ、いいんじゃないか」

「もっと、ちゃんと見てくださいよぉ」

「それよりさ、俺の礼服・・・早く出してくれよ」

「もう、ちゃんと掛けてあるでしょ?! リビングのところにぃ」

「あ、そうだったか」

「美容室に行く前に言ったでしょうがぁ・・・」

いざ、礼服を前にすると何故か緊張感が増してくる。そろそろ出かける時間も近い。

「あーっ!!」

「どうしたんです? あなた!」

「ウ、ウエストが・・・入らん」


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