THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行27 10/10


■ヒーローとヒロイン

「課長・・・最後にもうひとつお願いしていいですか?」

「なんだい?」

「背中のジッパー・・・また、下ろしていただけます?」

「あ、ああ」

宮田が今度は何の気なしにジッパーをスッと下げた瞬間・・・・!
振り向いた三村が、そのまま宮田の胸に飛び込んできた。

「み、三村・・・クン」

「課長・・・」

自分の胸に顔をうずめた三村の表情は、宮田からはうかがい知れなかったが、その声はかすかにすすり泣いて聞こえた。

宮田は、このまま三村を両手で抱きしめたい衝動にかられた。
が、待てよ・・・こんなシーンは昔、どこかで見たことがある。

そうだ! 息子を連れていっしょに行った映画・・・『ルパン三世 カリオストロの城』だ。
ヒロインの少女クラリスを救い出したルパンの胸に彼女が飛び込む。
ルパンは抱きしめたい衝動を必死におさえて・・・。

オトナが見てもジ〜ンとくる、いいシーンだった。
じゃあ俺は今・・・ルパンなのか?

すぐわきにはフカフカのベッド。そして背中をあらわにした女性が今、自分の胸の中にいる。
このまま後先考えずに行動を起こそうと思えば・・・条件は充分くらいそろっている。

しかし、このウエディングドレスは・・・銭形警部の持ち物だ。
もしも、ここで柳から彼女を奪ってしまったら・・・一生追われるだけじゃ済まされそうにない。

それより何より・・・今まで自分が頑張ってきたことが台無しになってしまう。

「さぁ、風邪をひくといけないよ」

これが今の宮田に言える精一杯の言葉だった。

ひとり、深夜の道路を家路に向かいながら・・・宮田は胸に残るかすかなぬくもりを感じていた。

・・・以下、次週
2000年3月26日(日)掲載予定

いよいよ、感動(?)の最終回!!

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