THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行27 9/10


■三村の寝室

やがてフスマの向こうから三村の声がした。

「課長〜っ」

「な、な、な、なんだい? 」

「すいませ〜ん、ちょっと手伝ってもらえますかぁ?」

「て、手伝うって何を?」

「背中のジッパーに手が届かないんです」

「え? じゃあ、そっちへ入っていいのかい」

「どうぞ〜」

「じゃ、入るよ。本当に入るからね」

初めて入った三村の寝室には小さめのベッドと、そのわきに衣装ケース。そして姿見があった。
姿見の前でややかがんだ姿勢をした三村の後ろ姿からは、まぶしい白い背中がのぞいている。

ドキッとして一瞬、目をつぶる宮田。
でも、目をつぶったままではジッパーを上げることはできない。
ゆっくりと目を開けて、そお〜っと背中に手をのばす。
ちょっと、もったいない気がしたけれど・・・ジッパーをシッカリと上まで上げた。

「よかったぁ! ピッタリです」

三村は、姿見の前で体を左右に振りながら喜んだ。

「本当にお借りしていいんですかぁ? 奥様の大切なもの・・・」

「もちろんだとも、キミさえよければ。どうせウチには男の子しかいないし、使ってもらった方がいい。・・・とってもよく似合うよ」

「ありがとうございます!」

「よし、と。じゃあ、私は失礼するよ。もう遅いし・・・」

「お茶もお入れしてないのに・・・」

「キミが入れてくれるおいしいお茶は、毎日、会社で飲ませてもらっているから・・・。もう、飲めなくなると思うと、ちょっと寂しいが、ね」

「・・・・」

「ドレスは置いていっていいかね? 当日、運べるかな?」

「はい。柳クンに車で迎えに来てもらうようにします」

「そうか・・・。よかったね、三村クン。本当によかった」

2人は姿見の中で、お互いの顔をジッと見つめ合った。


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