THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行27 5/10


■宮田の度胸

その日の午後一番、宮田はジェーピー物流での仕事の件で人事部長に呼ばれた。

「・・・そういうわけなんで、ちょっと早めの出向みたいになるが、ひとつ頼むよ」

「承知しました。・・・で、部長?」

「?」

「工事は必ず月内に終わらせるよう段取りを組みますが・・・ひとつだけお願いがあるんです」

「何かね?」

「解体前の建物を1日だけお借りしたいんです。もちろん休日に使います。ジェーピーの会津さんには、すでにご承諾を得ています」

「うん、しかし・・・休日といったら今月は18日からの三連休と、25、26・・・つまり三連休のうちのいずれかに・・・かね?」

「いや、26日の日曜日に」

「おいおい、そんな時期にはもう解体に入ってなきゃ・・・月末に間に合わんだろ?」

「いえ、間に合わせます。ですから何とか26日だけは使わせてください」

「どうやって間に合わせる気かね? そんな。だいたい、そこで何をしようって言うんだ?」

「はぁ実は・・・うちの課に結婚する者がおりまして」

「誰?」

「大阪に転勤が決まった柳クンと・・・三村クンです。課での最後の催しとして、彼らの結婚式をやりたいんですが・・・この時期になっては、どうしても会場がないもので」

「困るなぁ・・・はっきり言って困るよ。そういう仕事に関係のないところで、仕事の弊害になるかも知れんことをされちゃあ・・・。私としても、うまくいかなかった時に上に対して・・・」

その時、宮田はドンと机を叩いて立ち上がった。

「仕事に関係がない?! 社員の幸せを願うことは会社の仕事のひとつだと私は考えますが! それとも何ですか、会社は社員の時間だけを買って・・・その金でみんな勝手に幸せを買えとでも言うんですか!!」

「・・・わ、私は何もそこまで」

「だいたい、あなたは人事部長でしょ! 人事部長が社員の幸せを考えられずに、どうするんだ!」

「・・・・」

やや冷静さを取り戻した宮田は、ゆっくりと腰を下ろして言った。

「失礼しました。・・・でも私は自分が間違ったことを言っているとは思いません」

「宮田クン・・・キミの考えがどうであれ、私はこのことを上に報告するわけにはいかんよ。会社の決定に対して危険をおかすことになるからね」

「!」

「ただし・・・。あえて報告する必要もないと思う。キミが責任をもって月内に作業を完了してくれれば」

「もちろんです」

「そうか・・・。じゃあ、この話はこれでおしまいだ」

「ありがとうございます!」

「・・・キミがこんなに強情な、いや積極的な人間だとは知らなかったよ」

「・・・・」

「その積極性をもう少し早く見せてくれたらなぁ・・・」

「いや、ここにいる時に私がヘタに積極性を出していたら・・・」

宮田の脳裏を助手席で笑う三村の笑顔がよぎった。

「?」

「・・・何でもありません。それでは、失礼します」

ふと壁に掛けてあるカレンダーに目をやった人事部長が、宮田の背中に声をかけた。

「おい、宮田クン」

「はい」

「結婚式はいいが・・・26日は仏滅だぞ」

「えっ?」


Next■