THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行27 4/10


■宮田の大演説

月曜日の朝。課のみんなが席に着いたところを見計らって宮田は大声で叫んだ。

「ちょっと、みんな聞いてほしい!」

みんなの視線が一斉に宮田の方を向いた。
机の前に出た宮田はベッコウ眼鏡をクイッ上げると、三村と柳、そして課の一人ひとりを見渡しながら話しはじめた。

「知っての通り、この課は今月いっぱいで終わりだ。私がこの会社に来るのも、残りすくなくなってきた。・・・みんな、よく頑張ってくれた。心から礼を言うよ・・・ありがとう」

予想もしなかった言葉に三村の瞳が少しうるんだ。

「しかし、寂しいことばかりじゃない。みんなも聞いているとは思うが、この課から新しい家庭が誕生することになった・・・柳クンと三村クンが作る家庭だ。部下の中から生涯をともにするカップルが生まれたことを私は誇りに思う」

三村の瞳から、こらえきれず涙がひとしずく頬をつたった。

「そこで、どうだろう、みんな。彼らの結婚パーティをかねて、この課の打ち上げをやりたいんだ。会場は私が準備する。・・・日程は3月26日の日曜日だ」

山本がぬけて最近おとなしかったOL2人がガタッと席を立つ。

「えーっ、日曜日ぃ? 課長・・・それって強制参加ですか?」

一瞬、身を引いた宮田は声のトーンを下げて答えた。

「べ、別に強制・・・というわけじゃあないが」

「あーよかった。それじゃあ行けたら行きます。あくまでも行けたら」

「あ、ああ・・・そうしてほしい」

課の中は一気にシラケたムードになった。
やがて誰かの席で電話が鳴ると・・・みんな一斉に仕事が忙しいフリをしはじめた。

柳と三村が腰を下ろした宮田の元へやってきた。

「課長! ありがとうございます!!」

「い、いや・・・どうも私は・・・やっぱり金八先生のようには、いかんもんだね」

「そんなことないです。ステキでした! 課長!!」

「そ、そうかね?!」

「よく、ありましたね・・・会場」

「うん、埼玉だが・・・ここからなら40分程度で行けるし。キミたちさえ、もしよかったら挙式の準備もしたいと思っているんだが」

「えーっ? 挙式もできるんですか、嬉しい!!」

「田舎のオヤジやオフクロ、呼んでもいいスか?」

「もちろんだとも」

「でも・・・費用は?」

「会場費は・・・いらないんだ。まぁ、料理の費用とかはかかるけど。私の出身の北海道じゃ、結婚披露宴も会費制にする場合が多いし」

「わかりました。課長におまかせします」

「そうか、よかった。鈴木クンもはりきるだろう」

「鈴木・・さん?」

「ああ、彼・・・今、牧師やってるんだよ」

「はぁ・・・そう、なんですか」

柳と三村はお互いの顔を見合わせた。
宮田の席を離れ、廊下に出た2人はちょっと困惑気味。

「鈴木さんの前で・・・愛を誓うのか・・・俺たち」

「ま、いいじゃない。誰の前だって・・・それとも・・・誓えない?」

「誓える・・・よ」

「男らしくしてよね。・・・課長みたいに」


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