THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行26 12/12


■妻の乙女心

自宅までの夜道を歩いていた宮田は、ふと立ち止まって頭上を見上げた。

「あ、桜が・・・」

今朝見たバス停のところの桜は、まだ蕾が固い様子だったが、ここにある桜はすでに満開といった感じ。
どうやらバス停のところの桜とは種類が違う・・・もう、リッパな夜桜だ。
それにしても、どうして今朝は気がつかなかったんだろう?

玄関を入ると妻が出てきた。

「あら、お帰りさない。・・・案外、早かったのね?」

「帰る早々、イヤミを言うなよ・・・。それより誰かお客さん、来てるのか?」

「いいえ。・・・どうして?」

「どうしてって・・・。おまえ、そんなよそ行きのカッコしてるから・・・」

「だって今日、良樹の卒業式だった・・・でしょ」

「卒業式ったって昼間のことだろ、そりゃ? 何も今時分まで、そんなカッコ・・・」

「・・・だってぇ。たまには、こういうカッコ、あなたにも見せたかったんですもん」

「・・・・」

「どう?」

「そりゃ・・・いいけど。あ! そうだ!! そんなにめかし込みたいんだったら、ちょうどいい。例の媒酌人な。あれ、やることに決めたから」

「えっ? いつです?」

「えーっと予定では・・・26日」

「何月の?」

「今月に決まってるじゃないか」

「今月って、あなた。もう、すぐじゃない! あら大変!! 何着ればいいのかしら?!」

そう言って妻は、さっさと奥の部屋に消えて行った。

今日はうがいの前に良樹に「卒業おめでとう」とひとこと言おうと、宮田は階段を上がった。
2階のドアの前まで来て、ノックをしようとしたら・・・何やら声が聞こえてくる。

楽しそうな声だ。
どうやら彼女と話をしているようらしい・・・携帯電話で。

宮田はそのまま階段を降りて・・・やっぱり、うがいを先にした。

・・・以下、次週
2000年3月19日(日)掲載予定

最終回まで・・・あと、2回!!(たぶん)

written by ● master@digitake.com
Copyright (C) digitake 1998-2000 All rights reserved.


Back■