THE THEATER OF DIGITAKE

■前話の最終ページ


第26話 野心の行方<後編>

■金曜日の朝

金曜日の朝、宮田浩一郎は妻に後ろ髪をグイグイひかれた。

「・・・ねぇ、本当に行かないんですかぁ?」

「仕方ないだろ?! 仕事なんだから」

「だって・・・ひとり息子の卒業式ですよぉ? しかも、これで義務教育終わっちゃうんですよぉ?」

「期末でバタついてるんだよ」

「どうせ4月から別な会社に移っちゃうんですから・・・今さらバタついたってぇ」

「・・・・」

「じゃあ夜は早く帰ってきてくださいね。ご馳走つくりますから」

「いや・・・今夜は人と会う予定があるから・・・遅くなる」

「人って?」

「・・・木下だよ」

「・・・・」

「あのさぁ・・・」

「何です?」

「写真だけは撮っといてくれよ。写真だけは。良樹に卒業証書持たせて・・・桜の木の下かなんかで。おまえだってどうせめかし込んで行くんだろう? ふたり並んで・・・さ」

「誰にシャッター押してもらうんです?」

「そんなの誰でもいいじゃないか?! 良樹の友達だって何だって、そこらじゅうにいるだろ!」

「はいはい、わかりました。じゃ、いってらっしゃいませ」

バス停の近くに立つ大きな桜の木は、まだ堅く蕾を閉ざしていた。


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