THE THEATER OF DIGITAKE |
■前話の最終ページ |
■金曜日の朝 金曜日の朝、宮田浩一郎は妻に後ろ髪をグイグイひかれた。 「・・・ねぇ、本当に行かないんですかぁ?」 「仕方ないだろ?! 仕事なんだから」 「だって・・・ひとり息子の卒業式ですよぉ? しかも、これで義務教育終わっちゃうんですよぉ?」 「期末でバタついてるんだよ」 「どうせ4月から別な会社に移っちゃうんですから・・・今さらバタついたってぇ」 「・・・・」 「じゃあ夜は早く帰ってきてくださいね。ご馳走つくりますから」 「いや・・・今夜は人と会う予定があるから・・・遅くなる」 「人って?」 「・・・木下だよ」 「・・・・」 「あのさぁ・・・」 「何です?」 「写真だけは撮っといてくれよ。写真だけは。良樹に卒業証書持たせて・・・桜の木の下かなんかで。おまえだってどうせめかし込んで行くんだろう? ふたり並んで・・・さ」 「誰にシャッター押してもらうんです?」 「そんなの誰でもいいじゃないか?! 良樹の友達だって何だって、そこらじゅうにいるだろ!」 「はいはい、わかりました。じゃ、いってらっしゃいませ」 バス停の近くに立つ大きな桜の木は、まだ堅く蕾を閉ざしていた。 |
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