THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行26 11/12


■木下の友情

あれから数十年・・・いい歳をして男泣きを見せた木下も宮田と同じことを思い出していた。

「あん時も・・・今くらいの季節だったっけなぁ」

「ああ。でも・・・北海道はもっと寒かったよ」

「うん、寒かった」

2人はお互いの息の白さを確認し合った。

「わかったよ・・・宮。おまえは、おまえの道、行けや。・・・俺もそうする」

「すまない・・・」

「何か、ひさびさに泣いたら妙にスッキリしちまったよ・・・。俺って女性ホルモン多いのかな?」

「少なくとも俺よりは・・・男らしいはずだが」

「・・・よく言うよ」

結局、席の空きを待っていた屋台には寄らず・・・2人は帰路についた。

「新しい会社・・・物流の会社だから・・・。ひょっとしたらトラックの仕事があるかも知れん。また、落ち着いたら連絡させてもらうよ」

「ああ・・・期待しないで待ってるよ」

駅の改札まで宮田を見送った木下は・・・今度も最後まで宮田に伝えられないことがあった。

宮田と別れて帰る途中、木下はコンビニに入って就職情報誌を買った。
宮田の息子が公立に受かったことを知った時点で・・・木下は、すでに今の職場に辞表を出していた。


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