THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行26 9/12


■木下の怒り

木下の笑い声が・・・隣にいた宮田には、せつなく感じられた。

「木下・・・」

「うん? 何だー宮」

「木下、すまん!」

「・・・・」

木下は急にプランコを止めて、宮田の方を見た。

「俺には、やっぱり無理だよ・・・木下。サラリーマンを辞めるなんて・・・」

「そんなことないって! ひとりで独立するわけじゃないし・・・。そりゃ一度会社をつぶして借金まみれになった俺とじゃ不安はあるかも知れないけど」

「そうじゃないんだ。おまえのことは信用してる。むしろ一度失敗を経験してるおまえなら今度こそうまくやると思う」

「だったら・・・」

「いや。さっき話した通り、部下たちの結婚式をやろうとしてるだろ?」

「ああ・・・。でもそりゃ今月終わんだろ」

「もちろん今月中にやらなきゃ意味がない。でもな、それに協力してくれる今度の会社の人間がいるんだよ。その人の協力がなけりゃ、まず実現できんだろう。・・・その人にわがままだけ聞いてもらって、4月からそこでは働きませんなんて・・・俺には言えんよ」

木下はコップをブランコにのせて立ち上がると、ブランコの囲いのところまで2〜3歩進んで背中を見せた。
宮田も同じようにコップを置くと、木下に近づいて・・・頭を下げる。

「そういうわけだから・・・すまん、木下。何とかひとりで頑張ってくれ」

木下からの返事はない。宮田はそーっと頭を上げた。
と、その時、ものすごい勢いで木下が振り返る。

「おい、宮! てめぇ、そんな・・・つい最近知り合ったヤツの方が幼なじみより大事なのかよ!!」

宮田は、とっさに殴られる覚悟を決めて両目を閉じた。


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