THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行26 8/12


■ドカジャン木下

木下と会って居酒屋に入った後も、自分で企画したイベントのことが頭から離れない宮田は、その段取りについて興奮して話しまくっていた。

ひさしぶりに活気あふれる宮田の姿を見て、最初は話を合わせていた木下もいいかげん嫌気がさしてくると、そっけなく言った。

「最後まで大変だな、中間管理職も。で? その結婚式さえ終われば、もう何の未練もなく、俺の会社手伝ってもらえるん・・・だろ?!」

ハイテンションだった宮田は急に肩を落とした。

週末の夜。安い居酒屋の前には席が空くのを待つ人たちが何組かいた。
目の前の皿がひととおり空になっているのを見渡した宮田は伏目がちに木下を見た。

「木下・・・だいぶ混んできたみたいだから・・・ちょっと出るか? おまえの方の話は、もうちょい静かなところで落ち着いて話した方がいいだろ?!」

2人合わせて2,800円。オモテはまた一段と冷えていた。

「どっか空いてるとこあるかぁ? 静かなところったって・・・このカッコじゃホテルのラウンジというわけにもいかねぇし」

木下は運送屋の作業服のうえからドカジャンをはおっている。
よく見ると、その作業服はジェーピー物流の作業服によく似ていた。

「そ、そうだなぁ・・・」

「あ! そうだ。確か、この裏の公園の近くに屋台が出てたはずだ。そこなら、ここらよりずっと静かだろうから」

木下に先導されて路地を入るとすぐに屋台の明かりが見えた。しかし、そこも人でいっぱい。

「さすがに安いところは混んでるな、どこも」

「仕方ない、おやっさん。熱燗2杯くれや・・・空くまで公園ん中でやってるから」

木下は慣れた口調で屋台のおやじに話しかけると、両手にコップ酒を持って戻ってきた。
大のオトナが2人並んでブランコで飲みはじめる。

やがてブランコをこぎ出した木下は

「こいつは酔いが早くまわりそうで、ちょうどいいや」

と子供のように笑った。


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