THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行26 5/12


■解体命令

午後、宮田が自分の席に戻るなり電話が鳴った。人事部長からだった。

「宮田クン。これから、とくに予定がなければジェーピーの方へ行ってくれんかね?」

もちろん宮田に予定がないことを知っての命令だ。
早速、社を出た宮田は埼玉にある4月からの勤務先、ジェーピー物流へと向かった。

「宮田さん! 申し訳ない、急な話で・・・」

"宮田"と刺繍された作業服を手渡しながら会津が事務所のドアまで出迎えた。
コートの襟を立ててここまで歩いてきた宮田は暖かそうな事務所の応接で、まずはお茶の一杯でも飲みたかったが、その場で作業服に着替えると、会津に先導されるまま再び敷地の外へと歩かされた。

正面の入口を出て、壁づたいにグルッとまわってたどり着いたのは、例のゴーストタウン地帯。
レストランやファーストフードの店、そして貸し会場だった建物が、ところどころベニヤ板で覆われて無惨な姿をさらしている。

「実はね、宮田さん。この土地を売ることになったんですよ、本社命令でね」

「いつまでもこのままとは、いかんでしょうからねぇ・・・」

「そうなんです。だけどね、こういう建物が建ったままじゃ売れんでしょう?! そこで何とか今期中に解体しろって言うんですよ」

「今期中?! あと半月しかない」

「最も解体作業自体は、業者を入れたら10日もあれば片づいちゃうとは思うんですが・・・。解体前にガス管やら水道管やら電気の配線やらの手続きや、中に残ってる家具類の処分やら、いろいろ面倒なことが多いでしょ?」

「中にまだ残ってるんですか? 家具とか?」

「ちょっと・・・入ってみますか」

会津は、貸しホールの裏口にまわると鍵の束を取り出してドアを開けた。

「いかん! 懐中電灯、持ってくるんだったな」

薄暗い館内に足を踏み入れた会津が言った。
続けて入った宮田は、ふと目についた電気のスイッチを入れてみた。

「あ、ついた!!」

2人の目の前にシャンデリアが吊り下がる白い壁のロビーが浮かび上がった。


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