THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行26 4/12


■課長として、晩酌人として

月曜日に3人で飲んで以来、柳はどうやら会社を辞めるということについては白紙に戻したらしい。

「彼は大丈夫だよ、まだ若いし・・・。きっと東京に戻れるさ。それに・・・」

「?」

「私と違って自分の主張は上にだってズバズバ言うしね。そういう人間が必要なんだよ、これからの会社には」

「・・・・」

ただ、そうなると・・・ここ半月以内に大阪で新居を探さなければならない。

「三村クンは・・・別に構わないんだろ?! 大阪行きは」

「ええ」

「それじゃあ、山本クンと同様に・・・今月いっぱいで退職・・・だね」

「はい。差し迫って申し訳ありませんが・・・」

「別に構わんよ。しかし、会社にとっては損失だな、キミがいなくなるのは」

「でも・・・どうせここで働いてても・・・もう課長もいなくなっちゃうし・・・」

こんな言葉を聞いて、まだ宮田にはドキリとする神経が残っていた。自分でも不思議だが・・・もはや無駄な神経だ。

「この間、課長がおっしゃてくれたように簡単な式くらいはしたかったんですけど・・・」

「そうか、式があったな。そうだ、そうだ」

「媒酌人をお願いしてて申し訳ないんですが、そんな事情なんで、どうも落ち着いて式なんかできそうもないんです」

「・・・・」

「向こうでも暮らしが落ち着いたら・・・また考えてみようと思って」

「空いてそうな式場はないもんかねぇ・・・」

「無理ですよぉ・・・あと半月しかないですもん。どんな式場だって最低半年くらい前に予約しないと・・・」

「でもさ、急きょキャンセルなんて場合も・・・」

「・・・・」

「それじゃ・・・縁起わるいよな、やっぱり」

大阪で式をやるにしろ・・・東京で式やるにしろ・・・半年先になったら、今の課の連中はバラバラになってるはずだ。式の当日、一日くらいの都合はつくだろうけれど・・・。
この課の最後のイベントとして何とか今月中に式を実現させて、柳と三村を送り出してやりたい・・・と、宮田は真剣に考えはじめた。


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