THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行26 2/12


■明るいニュース

席についた宮田は・・・あいかわらず手持ち無沙汰でいた。
3月に入ってからというもの、仕事と言えば新課長、軽部の質問に答えて資料をまとめることくらいだ。

ただ、宮田としては1分でも多く今のこの席にいる時間を満喫したい・・・という思いがあった。

考えてみるとここ20年・・・机の上がこんなに広く感じたことはない。
いつも資料やらファイルやらが山積みで、机の板が何色何だったのか、忘れてしまうくらいだったのに。

課の連中は何となくあきらめ半分で仕事をしていたが・・・今日は何だか、いつもより明るい感じだ。

「はい、課長」

三村がお茶を運んできた。

「あ! ありがとう・・・。何だ? どうしたんだい、みんなニコニコして・・・」

「そう見えます?」

「そりゃあ見えるよ・・・まるで何か月か前に戻った感じだな」

「実は・・・柳クンが私たちの結婚のコト・・・みんなに話したみたいなんです」

「そうかぁ・・・それで。ひさびさに明るいニュースだもんな」

「・・・・」

「最も山本クンも結婚するんだったな・・・。でも同じ課の人間同士が結婚するとなれば、そりゃ、ひときわおめでたい、うん」

宮田はそう言って、お茶をひとすすりした。
三村が入れてくれるお茶をこうして飲めるのも・・・あと何回くらいあるだろう。

「課長」

「うん?」

「お忙しいところ申し訳ないんですれど・・・また、ちょっと相談にのっていただけません?」

「見ての通り忙しくなんかないけど・・・今夜はちょっと約束があるんだ」

「今夜じゃなくていいんです。私たちも実は今夜、羽田を発って熊本の柳クンのご両親に挨拶に行くことにしてるんです。今日一泊させていただいて、明日は熊本からうちの実家の青森へ・・・」

「・・・そいつはハードだな」

「お昼、ごいっしょさせてもらえませんか?」

「もちろん構わないが・・・柳クンは外回りだろ?」

「いいんです・・・彼は」

「あ、そう」

「じゃ、お昼に」

三村の後ろ姿を見送りながら、宮田はやっぱり今日は会社に来てよかった・・・と思った。

と、机の上の電話が珍しく鳴り響く。

「はい、宮田・・・ああ、もちろん大丈夫」

今夜の約束について・・・木下から確認の電話だった。


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