THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行25 9/9


■かすかな疑問

別れ際、柳は宮田に最敬礼をして見せた。

「課長! とにかく我々の晩酌人をお願いできるのは課長しかいません! 何卒お願いしますっ!!」

さすがにホロ酔いかげんの宮田は胸をはって答えた。

「よしっ! まかせておけ!!」

その言葉を聞いて安心しきった柳は、フラフラと歩き始める。
こうなると、いつもの酔っぱらいだ。

その後姿をながめながら宮田は三村に言った。

「・・・どうしようもないヤツだけど・・・いい男じゃないか」

「ええ、子供みたいな人ですけど・・・」

「そこが魅力か?」

三村は肩をすくめてうなづいた。

「それに・・・私だけでなく、私の両親のことまで考えに入れてくれる人なんて・・・あの人が初めて」

宮田は、ちょっとギクリとした。
確かに、宮田の立場としては・・・そこまで考慮することはできたはずもない。

「課長! じゃあ、本当にお願いしますね?」

「な、何を?」

ガードレールによじ登った柳が大声で叫び始めた。

「俺はシアワセだー!!」

三村はあわてて柳に駆け寄りながら宮田に言った。

「媒酌人です。媒酌人! じゃあ、また明日」

「あ、ああ」

若い2人を見送って、宮田はひとり帰途についた。
幸い焼酎が効いていて、自宅に着くまで体はポカポカしていた。

今週は、もう一度飲まなければならない・・・週末に、木下と。

自宅の前まで来て、建売住宅を見上げ・・・ふと、つぶやく。「脱サラ・・・ねぇ」

玄関を開けると、いつものように妻が迎えに出た。

「おかえりなさい」

「ああ・・・あ! あのさぁ」

「?」

「媒酌人って・・・どうやればいいんだ?」

妻は、キョトンとして宮田の顔を見た。
宮田の頬はアザの青さと酒の赤みがまざって・・・なんとなく紫色になっていた。

・・・以下、次週
2000年3月12日(日)掲載予定

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