THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行25 8/9


■宮田の叫び

グラスに残っていたストレート焼酎をひと口で飲み干した柳は静かに言った。

「・・・別にキミには苦労かけないよ。金とってくるのは男の仕事だからな。商売はじめるからには宣伝も必要だ。どうせ、みんなに集まってもらうんだったら・・・」

「そんなぁ・・・。そんな大事なこと」

「まぁまぁ2人とも・・・。それで柳クン、どんな商売をはじめようっていうんだい?」

柳は焼酎のボトルを傾けた・・・が、もう中味は残っていなかった。

「商売については・・・今、考え中です」

「おいおい、そりゃあマズイんじゃないか? これから所帯を持とうっていう男が」

「でも課長。俺、このまま会社にいたら・・・大阪に飛ばされるんですよ」

「それは・・・そうだが。別に仕事がなくなるわけじゃあ・・・」

「そうよ、何考えてんのよ!」

「だって、キミの実家は青森だろ! いいのかよ今より遠くに行っちゃって!! それに今の会社の体制じゃ、大阪からどこに飛ばされるのか、わかんないんだぞ!! 北海道、東北にゃ支店はないし、キミの実家から遠くなるばっかりだ」

「・・・でも、せめてほかの会社にお勤めするっていう手だって・・・」

「今のご時世じゃあ、この歳で再就職なんて無理! それに・・・自分で商売してりゃあ、働きたい場所は選べるだろ?」

自分で自分の働く場所を選ぶ・・・宮田にはない感覚だ。
一度は黙り込んでいた三村が話しはじめた。

「柳クン・・・ありがと。でもね、柳クンは私の両親と結婚するわけじゃないわよね。・・・私は、柳クンについていくつもりよ」

その言葉を聞いて、宮田は思わずその場に立ち上がって叫んだ。

「おい! 柳!! バカヤロー! しっかりしろ!! ・・・この果報者!!」


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