THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行25 5/9


■三村のささやき

軽部と別れた後、そろそろ約束の場所に行こうと思った宮田の目にとまったのは、小さな本屋。
吸い込まれるように、その本屋に入った宮田が立ったのはビジネス書のコーナーだ。

こんなものを読んだだけで成功できるはずはない・・・。
と思いつつ買ったのは『脱サラ成功術』という新書版だった。

結局、待ち合わせに5分遅れて宮田は機関車の前まで来た。
そこには柳・・・そして三村の姿があった。

「すまんね、遅くなってしまって」

「いえ、こっちこそ急な話で・・・」

宮田は柳の肩越しに三村を見た。

「課長・・・ごめんなさい」

その小さなつぶやきの意味は、きっと言葉通りに違いなかったが、宮田にとっては意味深にもとれる。

「とにかく寒いから、どっか入ろうじゃないか」

「じゃあ・・・前に課長をお誘いした時、行けなかったあの店にしましょう。こっちっス!」

柳が歩き始めた。宮田は三村と肩を並べて、それに続いた。

確かにあの時・・・柳が得意先につかまらずに、ここに来ていれば・・・今のような妙な感情はなかったかも知れない。ただの上司と部下・・・それだけのはずだった。結局、今でもそれだけには違いないんだけれど。

三村が、ささやくように言った。

「課長・・・朝から気になってたんですけど。どうしたんです? そのアザ?」

「い、いゃあ何でもないんだ・・・ちょっと転んで・・・」

「ひょっとして・・・私の・・・せい?」

「そ、そんなことは、ないよ。絶対!」

その声を聞いて柳が振り返った。宮田は柳に向かって、あわてて叫んだ。

「絶対うまい店だよ、絶対!」

「まかせてください!!」

柳は再び前を向くと胸をはって歩き出した。


Next■