THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行25 3/9


■柳の相談

柳だ。人事異動の一件以来、眉間にシワをよせ、奥歯をかみしめたような顔しか見せなかった男が・・・。
今日は何だか以前の明るい表情に戻っている。

「ど、どうした? 柳クン」

柳は、そのまま腰を90度近くまで曲げて、宮田に顔を近づけると小声で言った。

「実は折り入って、ご相談が・・・。あれ? 課長、どうしたんス? そのアザ?」

「いゃあ、ちょっと転んで・・・。それより何だね? 相談って・・・言ってみたまえ」

「いゃあ社内じゃ、ちょっと・・・。今夜、お時間いただけませんか?」

相手が社内の柳では・・・忙しいとも言い訳できない。

「・・・わかった」

「じゃ、6時半に新橋の機関車の前で」

「あ、ああ」

「お願いします」

柳はスキップするように自分の席に戻って行った。

話の内容は、おおよそ察しがついた・・・三村とのことに違いない。
宮田にとってみれば、これも少々憂鬱な話題ではあったが・・・。

仮にも自分の課で同じメシを食っていた、しかもその中核をなしていた2人の今後については、上司として気になるところではある。

宮田は、また三村の方をボーッとながめた。
数ヶ月前まで立て続けに鳴っていた宮田の机にある電話は、木下からの電話の後、その日とうとう一度も鳴ることはなかった。


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