THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行24 9/9


■合格祝い

息子の部屋をノックして・・・宮田は静かにドアを開いた。

「良樹・・・悪かったな・・・ちょっと仕事があって」

「いいよ別に。メシなんて誰と食ったって腹に入ればいっしょだし・・・」

良樹はベッドに横になって雑誌を開いたまま答えた。

「そういう言い方はないだろう? かあさんだって、みんなのために一生懸命ごちそうを作ったんだろうし・・・。最もそこに参加しなかったのは俺だけど、な」

言葉を詰まらせた父親を可哀想に思ったのか、良樹はガバッと起きあがってドアの方を向いた。
父親は真横を向いて右側だけを見せている。

「・・・どうしたの?」

「い、いゃあ・・・別に」

「何か・・・不自然だなぁ」

「そんなことないよ・・・は、は、は」

と笑ったとたん左頬に痛みが走って、思わず顔を手で覆ってしまった。
近づいた良樹がのぞき込む。

「どうしたの? まさか・・・ケンカ?」

「たいしたことはない。・・・それに、俺だってケンカくらいすることは・・・あるよ。男だからな」

「へぇ〜、とうさんがケンカをねぇ。こいつは驚いた」

「からかうなよ! イつつ・・」

「大丈夫かよ? ホントにぃ?! ちゃんと冷やしておいた方がいいよ」

「わかってる。・・・そうだ、良樹」

「ん?」

「合格祝い」

「え? 何、何??」

宮田が内ポケットから取り出したのは・・・宮田の携帯電話だ。

「えーいいの? 仕事で使ってるんじゃないの?」

「いや・・・もう、いいんだ。もうすぐ職場も変わるしな・・・。ほしかったんだろ?!」

「うん、まぁ」

「あんまり使い過ぎるなよ、通話料だって・・・」

「通話料は自分でなんとかするよ」

「・・・そうか。受験も終わったし・・・。真っ先にかけるのは、やっぱり彼女か?」

「・・・からかうなよ」

父親が下に降りてから・・・良樹は早速、その携帯電話にクミとおそろいのストラップを付けてみた。

・・・以下、次週
2000年3月5日(日)掲載予定

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