THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行24 8/9


■女房の気持ち

駅のトイレで顔を洗う。
鏡を覗き込むと、殴られたところが次第に腫れてきているのがわかった。
寒空を歩いて酔いが覚めてくると、顔の筋肉を動かしただけで痛みが伝わってくるようになってきた。

まぁ、眼鏡が壊れなかっただけよかった・・・と思うしかない。
考えてみれば自分が悪いんだし。

自宅の玄関を入ると、妻が飛び出してくるなり言った。

「遅いじゃないのあなた!! 今夜は良樹の合格祝いをやるって言ったのに!!」

うつむいて靴を脱ごうとしていた宮田はシマッタと思って、あわてて顔を上げた。

「やっぱり今日だったか! すまん! 忘れてた!!」

「キャーッ!! どうしたんです? その顔!! まさか誰かとケンカしたんじゃあ。とにかく冷やさなきゃ!!」

妻は小言を言うのも忘れて洗面所へ駆け込んで行った。
それを追うように宮田も洗面所に入った。

「とりあえず、うがいさせてくれ」

あらためて鏡をのぞきこむ。
薄暗い駅の洗面所で見た時より、はるかに左頬が腫れている。

「こりゃ確かに・・・ひでぇや」

「確かにじゃないわよ。何したのよ?! 最近はヘンな人がたくさんいるんだから気をつけないと危ないじゃないのぉ。あなたに、もしものことがあったら私・・・」

そう言いながら妻はポロポロ泣き出した。

「おいおい、そんなに心配するほどのことじゃないよ。・・・それより、すまなかったな」

妻は、まだ肩をふるわせてヒクヒク言っている。

「そうだ。良樹にも謝ってこないと」

妻は手にしていたタオルで涙をぬぐうと、もう一度水でかたくしぼって宮田に渡した。


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