THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行24 7/9


■アクシデント

ようやく正面玄関が見えるところまで、たどり着いた。
すると、玄関から自分と同年代か、あるいは少し上の中年の男と、娘ほども歳が違う女性が腕組みをして歩いて来る。

よろけた宮田は、うっかりその男にぶつかってしまった。

「あーこりゃ失礼しましたなぁ」

男は低い声で答えた。

「気をつけろよ、酔っぱらい!」

「酔ってて悪かったなぁ・・・そちらはイイですなぁ、娘さんとごいっしょで」

女がキッと宮田をにらんだ。

「娘? バカじゃない? 何、この人」

「じゃあ何だよ? カミさんにしちゃあ、お若いようで」

「てめぇにゃ関係ねぇだろ?!」

「何だと! あんたにゃ家族がいないのか! 本当のカミさんはどこにいるんだ! 女房を泣かすんじゃないよ! イイ男ぶりやがって」

その直後、男の拳が宮田の頬に炸裂してベッコウの眼鏡が宙を舞う。
もとから立つのもやっとだった宮田は大きく倒れ込んだ。

フロントにいた数人のホテルマンが、あわてて詰め寄る。

宮田を殴った男はホテルマンに事情を説明すると、さっさと行ってしまった。
宮田は四つん這いになって眼鏡を探している。

ホテルマンのひとりが拾い上げた眼鏡を宮田に渡した。
幸い絨毯がクッションになったために眼鏡は無事だった。

「も、申し訳ない。騒がせてしまって」

殴られたせいで、少し正気に戻った宮田は足早にホテルを出ていった。


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