THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行24 6/9


■男はつらいよ

別れ際・・・ホテルの正面玄関で三村をタクシーに乗せた宮田は、静かに言った。

「柳クンとキミのことは応援するよ。キミらの課長でいられるのも、もう長くはないが・・・。何かあったら遠慮せずに言ってくれ」

「ありがとうございます!」

ドアが閉まってタクシーが走り出す。
宮田は大げさなくらいに両手を上げて三村を見送った。
三村も満身の笑顔で小刻みに右手を振りながら、それに答えた。

車が大通りに出て、ホテルが次第に小さくなっていくのをながめながら・・・三村の目に大粒の涙が流れ出したことを宮田は知らない。
三村にとっても、このとめどもなく流れ始めた涙が、いったい何なのかわからなかった。

しばらくの間、その場で呆然としいた宮田は冷たい風に身震いした。
もう、こんな場所に用はない・・・が、何だか少し飲み足りない気分ではある。

あたりに手頃な店もないので、仕方なくもう一度ラウンジバーに戻った宮田はバーテンに尋ねた。

「何か暖まるモノは・・・ないかな? 熱燗とか」

「あいにく熱燗は・・・。ウォッカなどいかがでしょう?」

「じゃあ、それでいいや」

小さなグラスに入ったウォッカを目の前にした宮田の脳裏には、大好きな西部劇などで見る、イッキにウォッカを飲み干すシーンが思い起こされた。
真似してグッといってみる。
すると、まるで火の玉でも飲んだように酒が食道をつたっていくのがわかる。

確かに暖まるような気はする・・・が、何せ量が少ない。
いい気になって3杯4杯とおかわりしていると・・・急激に酔いがまわってきた。

こりゃヤバイ。立ち上がろうとしたが、すでに足にきている。
どうにか会計を終えてホテルの玄関に向かおうとした時には目の前がグルグル回っていた。


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