THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行24 5/9


■クールダウン

宮田のグラスを持つ手が少し震えてきた。
いったい、このグラスは今飲んで置こうとしたのか、それとも飲もうとして持ち上げたのか・・・それすら、わからないほど混乱している。

「あ、ごめんなさい。ヘンなこと言っちゃって・・・」

「い、いゃあ、ヘンじゃない。ぜんぜんヘンじゃないよ。わ、私だって・・・」

「課長!」

「・・・・」

「その先は言わないで」

「・・・・」

「私の話・・・聞いてほしいんです」

「あ、ああ。な、何かね?」

「実は最近、あることがあって・・・。何となくわかってきたの」

宮田は肩に入っていた力を少し緩めて三村の話に聞き入った。

「私も・・・ひょっとしたら課長も・・・。偶然でもいいから、自分のことを大切に扱ってくれる人がほしかっただけじゃないかって」

「・・・・」

「もちろん家族だって自分のことは大切に思ってくれているけれど・・・。それだけじゃない、わずらわしさもあるでしょ?!」

「・・・そう・・・ね」

「私が好きになったギターの人だって・・・。ただ、自分の思いだけでジッと見ていたからステキな人に思えてたけど。ひょっとして、何かの偶然があって、その人と真剣に付き合うようなことになっていたら・・・あの店になんか二度と行きたくなくなってたかも・・・」

「だが、それじゃあ、いつまでたっても・・・」

「そうなんです。そんなことの繰り返しじゃダメだって・・・ようやく」

「私が今のカミさんと結婚をする時にね。こんなことを思ったことがあるんだ」

「?」

「独身時代にはいろんな理想はあるけれど・・・本当に結婚する相手っていうのは、何ていうか自分が作り上げた理想というか、自分が知っているパターンをはるかに超越した存在だなって・・・。自分の思い通りじゃ・・・すぐに飽きちゃうだろうし」

「私にも、こんな自分を変えてくれそうな強烈な個性をもった人が・・・ようやく」

「柳クンかね?」

三村は静かにうなづいた。


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