THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行24 4/9


■三村の告白

給料日直後ということもあってか、高級なホテルのラウンジバーは比較的混んでいた。
それでも運良く窓際の客が帰るところで、宮田と三村は入れ替わりにその席へ腰を下ろした。

「おお、ここもなかなかイイ眺めじゃないか・・・」

今夜はツイてる・・・と宮田は思った。だから、どうだ・・・ということもないのだけれど。
宮田にうながされて窓の外に広がる東京湾の夜景を見下ろした三村は、ポツリとつぶやいた。

「だけど・・・あのお店がなくなっちゃったの・・・すごくショック」

注文したカクテルが運ばれてきた。

「そういえば・・・息子さん。どうでした? 受験」

突然、現実に引き戻された宮田は、ちょっと引きつった笑顔で答えた。

「ああ、おかげさまで無事・・・公立高校に」

「おめでとうございます!・・・じゃあ課長の息子さんの合格を祝して、乾杯!!」

飲み始めた宮田には、いくつか引っかかることが思い出された。

息子が公立に合格した今、木下の誘う事業に参画することになるのか・・・。
脱サラなんて、自分にできるのだろうか?

そういえば、妻が息子の合格祝いをやると言っていたのは、ひょっとして今夜じゃなかったか?
いや、来週の週末だったような気もするし・・・。

「課長?」

「う、うん?」

「私、あのお店には特別な思い出があって・・・」

「ああ、あの店ね」

「東京に出てきて初めて好きになった男の人が、いつもあのお店に来ていて・・・」

最初に三村からあの店に誘われた時から、そんなことだろう・・・と宮田は思っていた。

「で、三村クンが好きになった人って・・・どんな人?」

「ギター弾いてたんです。あのお店で・・・。だけど知っているのは、それだけ。ある日、突然来なくなってそれっきり・・・。何でも結婚して子供さんができて、ギターじゃ食べていけないから、どっかに就職したらしいんですけど・・・」

「ふーん。そりゃあ・・・仕方ないな」

「いつかは、またあのお店に戻ってくるような気がしてたんですけど・・・ね。いい歳して・・・笑い話でしょ?」

「そこがキミのいいところじゃないか・・・」

「そう思ってくれるのは・・・きっと課長さんだけね。だから・・・」

「?」

「好きになっちゃったのね」

宮田は、グラスを持ち上げたまま硬直した。


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