THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行24 3/9


■思い出の残骸

店を出ると山本は「彼氏が迎えにくるのでー」とあいかわらず語尾をのばしながら、何のためらいもなく去って行った。
とりあえず課長として義理は果たせた・・・と宮田は思った。

「課長・・・」

三村がつぶやく。

「今夜は、もう一軒・・・いいですか?」

「ああ、もちろん」

短い会話の後、すぐさまタクシーをひろってめざした先は芝浦。
かつて宮田と三村が何度か行ったことのある海の見えるバーだ。

こんな暗黙の了解でわかり合える仲なのに・・・。
タクシーの中で三村の横顔を見ながら、宮田はふとそんなことを思った。

「お客さん、このあたりでいいんですか?」

運転手の声がして、窓の外に目をやった宮田はベッコウ眼鏡の奥で目を細めた。

「あ、そうそう・・・そこに店の看板が・・・あ! ない」

三村も思わず外を見る。
タクシーは、その場所で一旦止まった。

「・・・なくなっちゃったみたいですね・・・あのお店」

そこには半分取り壊しかかった、その店の残骸が寒空にさらされていた。

「まいったなぁ・・・。運転手さん、このあたりでちょっと落ち着いて飲めるところ・・・ないかな?」

「そうっすねぇ・・・。新橋に戻るか・・・でも落ち着いて飲めるって言うと・・・。この先の天王洲にあるホテルのラウンジくらいかなぁ」

「ホ、ホテルの・・・。う〜ん。三村クン、ど、どうする?」

「じゃあ・・・そこにしましょ!」

自分を取り囲むすべてのわずらわしい現実をいっぺんに忘れた宮田は眉をキッとひきしめて言った。

「じゃあ、そのホテルへ行ってくれたまえ!」


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