THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行24 2/9


■山本の送迎会

元OL3人組のうちのひとり、山本が結婚のため正式な退職届を出したのは2月中旬だった。

あいにく社内の人間たちは、4月からの自分のことで頭がいっぱいで、送迎会をやろうという雰囲気もなかったが・・・こういう会社のしがらみから逃れたかった山本にとって、それはちょうどいい感じでもあった。

ただ、課長である宮田と最後の最後になって山本と話せるようになった三村だけは、何とかカタチだけでも送迎会をやりたいと考えた。

三村が音頭をとって3人での飲み会が行われたのは、2月最後の週末。
3月に入ってしまうと、みんなバタついてそれどころではなくなりそうだし・・・。

三村が予約したのは新橋にあるスキヤキの店。
飲み会と言うより食事会といった感じになった。

「もちろん今夜は私のオゴリだ。遠慮なくやってくれたまえ」

「えーっ、そんなこと言って課長。本当は経費で落とすんじゃないんですかぁ?」

「いやいや・・・。そんなことが、できる状況じゃあないし・・・」

「たしかに、そーですよねーっ。じゃあ遠慮なくいただきまーす」

思えば、この山本とも面と向かって話したことは、まずなかった。
いつもOLをひとタカマリで見ていたのは・・・自分の落ち度だったかも知れない。
もちろん、三村だけは別だが。

「そういえば三村さーん。今日、彼氏は呼ばなかったんですかぁ?」

山本のひと言を聞いて、宮田と三村は思わずムセてしまった。

「だ、誰よ? 私の彼氏って?」

「いやだー! 柳さんに決まってるじゃないですかぁー!」

「や、柳クン?」

「そーですよー。だって、いつでも柳さんは三村さんの肩もつしぃー」

「・・・・」

「・・・でも、社内にそういう人がいるのってぇ。ちょっと羨ましかったなぁ」

「まぁ、まぁ、山本クンだって、これからは強い味方といっしょになるわけだから」

「そーですねー。でもぉ・・・大丈夫かなぁ、本当に」

「そりゃあ大丈夫だろう?! 誰にだって先のことなんか、わかりはしないけれど・・・自分でこうするって決めた時点が、すべてのスタートで。スタートラインに立ってしまったら、あとは走るしかないだろう?!」

「課長カッコイイこと言いますねー。でも、そーかも知れない。課長も新しい会社で頑張ってくださいねー」

「あ、ああ・・・」

二人のやりとりを聞きながら、三村はひたすらスキヤキの鍋をかきまぜていた。


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