THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行23 7/8


■柳の決心

柳と飲み行くこと自体に不思議と抵抗は感じていない三村だったが・・・。
今はとても酒を飲みたいという気持ちにはなれなかったので、とりあえず柳とは会社の近くの喫茶店で待ち合わせることにした。

柳は出先から直接、喫茶店にやってきた。

「待たせた?」

「いいえ。・・・で、何・・・かしら?」

「急いでるの?」

「・・・・」

柳はコーヒーを注文すると、上着のポケットからタバコを取り出して火をつけた。

「柳クン、いつからタバコを?」

「あ、ああ・・・つい、この間から。学生時代には吸ってたんだ。でも会社に入って自分の金で一人暮らしするようになってから・・・やめてた」

「・・・そう」

「俺さぁ・・・いろいろ考えて・・・。まずキミに謝らなきゃと思って」

「何を?」

「いやぁ・・・クリスマスのこととか・・・正月のこととか・・・」

「・・・いいのよ、もう。私だって思春期の娘じゃないんだから」

「でもさ・・・たつ鳥、後を濁さずって言うし」

「どういう意味?」

「そりゃあ、これから飛び立とうとしている鳥が・・・」

「そうじゃなくて!」

柳は手にしたタバコを灰皿に押しつけながら言った。

「俺・・・会社辞めるよ」

「えっ? どうして?」

「わかるだろ・・・そんなこと。こんな仕打ちされてまで、いたかないよ」

「それはわかるけど・・・。辞めてどうするの?」

「さぁ・・・決めてない」

「決めてないですって?」

「ああ。とにかく今の会社はイヤなんだ」

「そんな・・・無責任な」

「無責任って何が?」

「だって・・・だって、そうじゃない」

「?」

「人に結婚申し込んでおいて、生活のことも考えないなんて!」

ふたりは、顔を見合わせたまま・・・お互い次の言葉が出ずにうつむいてしまった。


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